
洞窟探検って、何が楽しいんだろうな。

誰も入ったことのない場所を、自分で見つけられることではないでしょうか。

でもさ。もしその「誰も入ったことのない場所」から、何かが出てきたら?
2001年3月23日。
無料ホームページサービス「Angelfire」に、一つの個人サイトが作られました。
タイトルは、Ted’s Caving Page.
洞窟探検を趣味とするTedという男性が、自分の体験を書き残すために作ったページです。
そこには日記だけではなく、洞窟内部の写真や図まで掲載されていました。
話は数か月前。
2000年12月にさかのぼります。
Tedと友人の「B」は、以前から知られていた洞窟へ入っていました。
その奥で二人は、小さな穴を見つけます。
人間が通れるほど大きくない。
ただの隙間にしか見えない穴。
しかし――
その向こう側から、空気が流れていました。
穴の先には、まだ空間がある。
二人はそう考えました。
そしてこの小さな穴を、人間が通れる大きさまで広げることにします。
それがすべての始まりでした。
穴の向こうには何かがある
洞窟の中で風を感じる。
洞窟探検をする人間にとって、それは重要な手掛かりです。
空気が流れているなら、その先に別の空間や出口が存在する可能性がある。
TedとBは興奮します。
もしかすると、まだ誰も知らない洞窟の一部を発見したのかもしれない。
しかし問題があります。
穴が小さすぎる。
そこで二人は岩を削り始めました。
ハンマー。ノミ。ドリル。
何度も洞窟へ通い、少しずつ穴を広げていく。
洞窟の狭い場所で身体を押し込みながら岩を削る。
削った岩を外へ運ぶ。
また削る。
それを何度も繰り返します。
Tedはその狭い通路を、「Floyd’s Tomb(フロイドの墓)」と呼びました。
洞窟事故で知られる探検家フロイド・コリンズに由来する名前です。
冗談めいた名前でした。
この頃のTedたちにとって、それはまだ、未知の場所を発見する楽しい冒険でした。
最初の異変
穴を広げる作業を続けていたある日。
Tedは奇妙なものを感じます。
音。
最初は、洞窟の中で聞こえる普通の音かと思いました。
しかし違う。
遠くから聞こえるような、低い、奇妙な音。
岩が擦れる音なのか。
水の音なのか。
あるいは洞窟内部で反響した別の音なのか。
判断できません。
だから二人は、それほど深刻には考えませんでした。
作業を続けます。
穴は少しずつ大きくなっていきました。
そしてある日。
Tedは、また音を聞きます。
今度は前よりはっきりしていました。
遠くから響いてくる、叫び声のような音。
人間なのか。
動物なのか。
それとも空気が洞窟内部を通過した音なのか。
分からない。
ただ、それまで楽しかった穴掘りに、少しずつ別の感情が混ざり始めます。
「あれは何だった?」
Tedだけが異常を感じたわけではありません。
Bもまた、洞窟の中で起きたことを認識していました。
それでも二人は合理的な説明を探します。
洞窟内を流れる空気。
反響。
岩。
動物。
説明はいくらでも考えられる。
そして何より、穴の向こう側を見たい。
恐怖より好奇心の方が、まだ勝っていました。
二人は再び洞窟へ戻り、岩を削り続けます。
穴は、人間が身体を通せる大きさに近づいていきました。
頭から入るか、足から入るか
そしてついに。
Tedが通れるだけの隙間ができました。
しかし、その通路は極端に狭い。
身体を押し込んで進む必要があります。
途中で身動きが取れなくなれば、簡単には戻れません。
頭から進めば先を見ることができる。
しかし詰まった場合、後退するのが難しい。
足から入れば戻りやすい。
しかし先が見えない。
Tedは身体を押し込み、狭い岩の間を少しずつ進みます。
胸。
肩。
腰。
身体を捻りながら、数センチずつ。
岩が身体を締め付ける。
そしてようやく、狭い部分を抜けます。
その先には――
空間がありました。
誰も入っていないはずの場所
Tedは新しい空間を調べます。
これまでより広い。
そしてさらに奥へ続いている。
ところが奥へ進んだところで、奇妙なものを見つけます。
岩壁に刻まれた、記号のようなもの。
自然にできた傷ではない。
誰かが刻んだように見える。
しかし、ここには自分たちが穴を広げるまで入れなかったはずではないのか。
もし人工的なものなら、誰がここへ来たのか。
そしてどうやって入ったのか。
Tedには分かりません。
さらに奥からは、あの奇妙な音が聞こえてきます。
暗闇の向こう。
何かが動いているようにも聞こえる。
そして、叫び声。
ライトで照らしても、その先には暗闇しかありません。
二人は洞窟から撤退します。
ところが、洞窟を出れば終わりではありませんでした。
家に帰ってから始まったこと
Tedは日常生活へ戻ります。
しかし眠れない。
夢を見る。
洞窟の夢。
そして、自宅でも奇妙な感覚に襲われるようになります。
何かに見られている。
暗闇の向こうに、誰かが立っているような気がする。
Bも似たような不調を訴え始めます。
二人は、洞窟での経験が精神的に残っているだけだと考えようとします。
しかし時間が経っても、感覚は消えません。
そこでTedたちは、もう一人の友人を連れて洞窟へ戻ることにします。
その人物が、Joeでした。
3人で洞窟へ
3人は再び洞窟へ入ります。
例の狭い通路を抜け、奥へ進む。
そして以前異常を感じた場所へ戻ってきます。
そこで再び、異変が起きます。
音。
叫び。
そして、何かが近づいてくるような感覚。
Tedたちは混乱します。
出口は狭い。
一人ずつしか通れない。
何かから逃げようとしても、すぐには外へ出られない。
身体を押し込む。
岩に引っかかる。
後ろが気になる。
しかし振り返る余裕はない。
Tedは、背後から何かが迫ってくるような恐怖を感じながら、必死に穴を抜けます。
3人は洞窟から脱出しました。
もう行かなければいい
普通なら、ここで終わります。
怖かった。
二度と行かない。
それで済む。
しかしTedたちには、それができませんでした。
洞窟へ行かなくなっても、悪夢や奇妙な感覚が続いたからです。
Tedは考えます。
自分たちは、正体を確認しなかったから怖いのではないか。
何だったのか分からないから、頭から離れないのではないか。
ならば、もう一度行く。
そして正体を確認する。
そうすれば終わる。
「closure」――決着をつけるために。
2001年5月19日
Ted’s Caving Page。
最後の更新。
2001年5月19日。
Tedは、再び洞窟へ行くことを決めたと書きます。
B。
Joe。
そしてTed。
3人で行く。
しかし今回は、これまでとは違います。
Tedはナイフと銃を用意しました。
洞窟探検に必要だからではありません。
もし奥に何かがいた場合に備えるためです。
Tedは読者に、戻ったらページを更新すると伝えます。
何があったのか。
洞窟の奥に何があるのか。
答えを持って帰る。
そして――
Ted’s Caving Pageの更新は、そこで終わっています。
次の記録はありません。

……いや。そこで終わるなよ。

2001年5月19日が最後です。

洞窟から帰ってきたの?

物語の中では、それは書かれていません。
では、Tedは本当に消えたのか
ここからは、記録そのものと現実を分けます。
Ted the Caverは、実話として終わった未解決事件ではありません。
現在ではTed Hegemannによるホラーストーリーとして知られています。
重要なのは、現実の洞窟探検を土台として作られていることです。
TedとBによる洞窟探検。
狭い穴を広げて、その先へ進む作業。
サイトに掲載された洞窟写真。
そうした現実の体験へ、異音、記号、恐怖、怪異、そして更新停止という創作を重ねて完成したのがTed the Caverでした。
なぜこれほど怖かったのか
今なら「クリーピーパスタ」という言葉があります。
怖い創作。
ネット怪談。
ARG。
フェイクドキュメンタリー。
私たちは最初から、そういう可能性を疑いながら読みます。
しかしTed’s Caving Pageが公開されたのは、2001年。
サイトの見た目も豪華なホラーサイトではありません。
個人が作った、素朴なAngelfireのホームページ。
そこに洞窟の専門的な描写。
実際の写真。
作業記録。
日付。
少しずつ変化していくTedの文章。
そして最後に、
「もう一度行く」
と書き残して更新が止まる。
どこから創作なのか分からない。
そこが、この作品最大の仕掛けでした。
穴を広げなければ、何も起きなかった

結局、怪物はいなかったんだよね?

現実の話をするなら、怪物が存在した証拠はありません。

じゃあ安心……なのかな。

ただ。最初のページを思い出してください。
二人が見つけたのは、ただの小さな穴でした。
通れない。
向こう側も見えない。
そのまま帰っていれば、何も起きなかった。
でも、向こうから風が吹いていた。
だから二人は削った。
一度で通れなければ、また来た。
それでも通れなければ、さらに削った。
そしてついに、人間が通れる穴になった。
Ted the Caverは怪物が襲ってくる物語というより、
「開けなくてもよかった場所を、人間が自分から開けてしまう物語」
なのかもしれません。

そう言われると、最初の穴が一番怖く見えてくるな。

ええ。
穴の向こうに何があるのか分からない。
だから、確かめたくなる。
そして2001年5月19日。
Tedは最後にもう一度、その暗闇の中へ戻ると書き残しました。
今度こそ、向こう側にあるものを確かめるために。
そこで記録は終わっています。
出典・参考
- Ted’s Caving Page(2001年公開のオリジナル作品)
- Ted Hegemann, Ted the Caver
- Know Your Meme「Ted the Caver」― 公開時期・ネット上での伝播に関する資料



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