テストで0点を取った時。
授業中に居眠りした時。
あるいは仕事で失敗した時。
一度くらいは思ったことがあるかもしれません。
「誰にも気付かれなければいいのに」と。
今回の資料は、そんな願いを叶える帽子の話です。

本日の資料はSCP-268。
通称「忘却の帽子」です。

忘却ってことは……記憶を消す帽子?

少し違います。
ですが、その勘違いは無理もありません。
SCP概要
SCP-268は古いニュースボーイキャップです。
見た目はごく普通の帽子ですが、被った人間には異常な効果が現れます。
よく「透明になれる帽子」と説明されることがあります。
ですが、それは正確ではありません。
SCP-268を被った人間は消えません。
普通に見えています。
カメラにも映ります。
それでも、人々はその存在を気にしなくなるのです。
まるで最初からそこにいて当然だったかのように。

透明人間じゃないのか。

ええ。
だからこそ厄介でした。
財団が欲しがった帽子
当然ながら、財団はこの帽子に注目しました。
被れば警備をすり抜けられる。
監視を避けられる。
潜入任務にも使える。
非常に便利な異常存在に見えたのです。
実際、財団はSCP-268を実戦投入します。
エージェントへ貸与し、実際の任務で使用させたのです。

まあ正直、俺でも使うと思う。

財団も同じ判断をしました。
問題は、その後です。
誰も覚えていない職員
しばらくして財団は異変に気付きます。
あるエージェントの記録が残っていたのです。
給与記録。
任務記録。
配属記録。
どれも確かに存在していました。
そこで財団は関係者へ聞き取りを行います。
直属の上司。
同じ部署の職員。
管理部門。
しかし返ってきた答えは同じでした。
「そんな人物は知らない」
「聞いたこともない」
誰一人として、そのエージェントを覚えていなかったのです。
ですが記録だけは残っていました。
任務もこなしている。
給与も支払われている。
存在した証拠だけが残り、記憶だけが消えていたのです。

え?
それ帽子脱いでも戻らないのか?

そこが問題でした。
SCP-268は長時間使用すると影響が残ることが分かったのです。

便利アイテムだと思ってたのに急に怖くなってきたな……
会話したことすら残らない
財団は追加実験を行いました。
長時間使用者に対して、どのような影響が残るのかを調べたのです。
結果は予想以上でした。
被験者は警備員へ接触します。
普通に会話します。
質問もします。
そして収容エリアのパスワードまで聞き出しました。
警備員は普通に答えました。
しかし後に事情を聞かれると、
その警備員はこう答えます。
「教えた覚えはない」
会話は成立していました。
実際に答えも聞き出しています。
それなのに。
警備員の記憶には何も残っていなかったのです。

それもう透明化より怖くないか?

見つからないのではありません。
見つかっても重要だと思われないのです。

そっちの方が嫌だな……
帽子は消えた
そして最後の記録です。
ある日。
財団が保管していたSCP-268が消失します。
厳重に保管されていたはずの帽子は忽然と姿を消していました。
現場には一枚のメモだけが残されていました。
Thanks, I needed my hat back.
「ありがとう。自分の帽子を返してもらうよ」
そして署名。
― L.S.
犯人は不明。
帽子も未回収。
財団は結局、SCP-268を守り切ることができませんでした。

いや誰なんだよそのL.S.って。

それも含めて未解決です。
なぜ268は怖いのか
SCP-268は透明化の道具ではありません。
透明人間なら、見つかった時点で終わりです。
ですが268は違います。
見つかってもいい。
話しかけてもいい。
会話してもいい。
それでも相手はあなたを重要だと思わない。
だから記憶に残らない。
だから警戒されない。
だから恐ろしいのです。

便利そうだと思ってたんだけどな。

財団もそう考えました。
SCP-268が本当に恐ろしい理由
人は時々、
誰にも見られたくないと思います。
誰にも気付かれたくないと思います。
ですが。
誰からも気にされなくなりたいとは思いません。
SCP-268が奪うのは視線ではありません。
存在感です。
あなたがそこにいるという事実そのものを、少しずつ曖昧にしていくのです。

気付かれないのと、忘れられるのは違うんだな。

ええ。
それがSCP-268の本当の異常性です。
まとめ
SCP-268は透明人間になれる帽子ではありません。
被った人間を「そこにいて当然の存在」に変えてしまう帽子です。
最初は便利な道具に見えました。
ですが財団は、その便利さの代償を知ることになります。
誰にも見つからないこと。
それ以上に恐ろしいのは、誰にも気にされなくなることだったのです。

今夜の記録はここまでです。
また次の資料でお会いしましょう。
出典
SCP-268 “Cap of Neglect”
Author: Pair Of Ducks
Source:
https://scp-wiki.wikidot.com/scp-268
ライセンス
This work is licensed under Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License (CC BY-SA 3.0).

実はさっきから帽子被ってるんだよ。

そうですか。

もっと驚けよ。



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