誰も傷つけない「救い」を、なぜ閉じ込めるのか――SCP-6113と財団が守る正常

奇妙な記録
そうめん
そうめん

SCPって、基本は危ないから閉じ込めるんだよな?

司書
司書

それが分かりやすい理由ですね。

そうめん
そうめん

じゃあ、誰も傷つけないやつなら?

司書
司書

それでも財団は収容します。

そうめん
そうめん

なんで?

司書
司書

「普通ではない」からです。

怪物が人を殺す。

だから閉じ込める。

危険な物体が災害を起こす。

だから隠す。

それなら。

理由は分かりやすい。

では。

誰かを助ける異常だったら。

苦しんでいる人の前に現れ。

話を聞き。

その人が望んでいた姿へ変え。

そして。

何も要求せず去っていく。

そんな存在まで。

私たちは。

閉じ込めるべきなのだろうか。

SCP Foundationで公開されている創作作品。

SCP-6113「Temporary Reflections」。

この記録で問われるのは。

異常が危険かどうかだけではない。

そもそも「正常」とは、誰のために守られているのか。

その境界そのものだった。

人生で最も苦しいときに現れる

SCP-6113は、ひとつの存在だけを指す番号ではない。

複数の異常と、それに関係する人物をまとめた指定である。

その中心にいるのが。

SCP-6113-1。

人間の姿を取ることができる、正体不明の存在だ。

それが現れる相手には共通点がある。

トランスジェンダーであること。

そして多くの場合。

人生で最も苦しい瞬間にいること。

SCP-6113-1は、怪物の姿では現れない。

家族。

友人。

恋人。

教師。

その人が信頼している誰かの姿を借りて現れる。

しかも。

姿を真似るだけではない。

本人しか知らないような記憶や、人間関係まで理解している。

そして。

まず話をする。

いきなり何かを変えるわけではない。

落ち着かせ。

慰め。

一緒に歩こうと誘う。

その先にあるのが。

もうひとつの異常。

SCP-6113-2だった。

どこにあるのか分からない湖

SCP-6113-2は。

森の中にある淡水湖だとされている。

しかし。

正確な場所が分からない。

体験した人によって、景色の証言さえ一致しない。

SCP-6113-1に導かれた人は。

まるで最初から湖が歩いて行ける場所にあったかのように。

自然にそこへ辿り着く。

湖畔に座る。

学校。

恋愛。

将来。

そんな普通の話をする。

そして会話は。

少しずつ。

本人の性別や、自分の身体についての話へ移っていく。

そこで。

SCP-6113-1は言う。

湖を見て。

水面に映った「なりたかった自分」

最初。

水面には現在の自分が映る。

だが。

その姿が。

ゆっくりと変わり始める。

そして水面だけではなく。

現実の身体も同時に変化する。

本人が望む性別に一致するように。

身体的特徴。

性染色体。

それらまで永久的に変化する。

しかも。

原典では、この変化に痛みはない。

変化を終えた人々も。

その後は異常存在になるわけではない。

普通の人間として戻っていく。

自信を取り戻した。

これから生活を良くしていきたいと思えるようになった。

そう証言した人々もいた。

そうめん
そうめん

……これ、何を収容する必要があるんだ?

司書
司書

そこが、この記録の中心です。

そうめん
そうめん

危険じゃないんだろ?

司書
司書

少なくとも、原典に記録された「移行イベント」そのものは、対象者を傷つけるものとして描かれてはいません。

財団が最初にしたこと

2019年4月。

医療処置を受けることなく身体が変化した人々の報告が、ニュースやSNSへ現れ始める。

財団が存在を把握するまでに。

すでに126人が影響を受けていた。

財団は動く。

目撃情報を否定する。

対象者を拘束する。

事情を聞く。

法的な記録を書き換える。

そして。

本人や周囲の人間へ記憶処理を行い。

最初からその性別として生まれていたという。

偽の記憶を与える。

目的は。

いつもの財団と変わらない。

世界を「正常」に保つこと。

だが。

ここでは。

その言葉が少し違って見える。

財団が隠しているものは。

人を殺す怪物ではない。

助けられた人々の存在だった。

異常ではない少女が、SCPになった

その中に。

12歳の少女がいた。

彼女はトランスジェンダーの少女だった。

家庭では精神的、言葉による虐待を受け。

学校ではいじめを受けていた。

彼女にとって安心できる場所だったのは。

友人アレナと。

その家族のそばだった。

やがて彼女は家を追い出される。

その夜。

SCP-6113-1が。

アレナの姿で現れた。

彼女を慰め。

湖へ連れていく。

そして。

彼女もまた。

水面に映る自分を見た。

身体が変わった。

彼女は泣いた。

だが。

それは。

苦痛によるものではなかった。

彼女は。

ようやく自分が望んでいた身体を得た。

そして友人の家族に保護され。

病院へ行った。

そこへ。

財団がやってきた。

「私、危険じゃないよ」

問題が起きた。

財団の手違いで。

彼女を引き取ろうとしていた友人一家の記憶が。

先に消されてしまった。

家へ帰すことは難しい。

実の両親へ戻すこともできない。

そこで倫理委員会が下した判断は。

奇妙なものだった。

彼女を。

SCP-6113-3として指定する。

そして。

18歳になるまで。

サイト17で収容する。

ただし。

原典ははっきり記している。

彼女自身は、完全に非異常の人間である。

危険な能力もない。

現実を改変することもない。

ただ。

異常な出来事に救われた。

その結果。

彼女は番号で呼ばれるようになった。

そうめん
そうめん

待って。それって収容なの?

司書
司書

財団の文書では、そうです。

そうめん
そうめん

でも、その子は普通の人間なんだろ?

司書
司書

ええ。

そうめん
そうめん

じゃあ守ってるのか、閉じ込めてるのか分かんないじゃん。

司書
司書

その曖昧さを、この記録は意図的に残しています。

名前ではなく、番号で呼ばれる

彼女を担当したのは。

ジェームズ・パーク博士だった。

最初の面談で。

彼女はほとんど話さない。

そして次の面談で。

ようやく口を開く。

なぜ。

みんな自分を。

SCP-6113-3と呼ぶのか。

自分には。

ちゃんと名前がある。

パーク博士は説明する。

財団は。

世界に知られてはいけない異常を収容する組織だと。

そして彼女も。

そのひとつとして。

番号を与えられた。

少女は尋ねる。

自分は危険ではない。

ほとんど普通なのに。

なぜ、ここから出られないのか。

その質問に。

きれいな答えはなかった。

研究対象から、一人の人間へ

パーク博士と少女は。

何度も話すようになる。

最初は。

研究者と収容対象だった。

だが。

少しずつ。

関係が変わっていく。

博士は彼女を。

番号ではなく名前で呼ぶようになる。

彼女も。

自分の過去を話すようになる。

両親のこと。

学校のこと。

友人のこと。

自分が何を望んでいたのか。

その会話を重ねるうちに。

博士にとって。

SCP-6113は。

単なる「異常」ではなくなっていく。

そこにいるのは。

収容番号ではない。

一人の子どもだった。

「湖を守る」と約束した

財団は。

SCP-6113-2の場所を探していた。

だが。

体験者たちは記憶処理を受けている。

詳しい情報を持っているのは。

彼女だけだった。

少女は。

最初。

協力を拒む。

湖を見つければ。

財団は閉鎖する。

そうなれば。

自分と同じように苦しんでいる人が。

もう助けてもらえなくなる。

パーク博士は。

説得する。

財団が場所を把握すれば。

悪意を持つ者から湖を守れる。

そして。

利用そのものまで。

禁止しなくてもいいかもしれない。

少女は。

博士を信じた。

そして。

場所を教えた。

ミネソタ州。

リトル・カリブー湖。

ただひとつ。

約束を求めた。

自分のせいで、ほかの人が湖を使えなくなるようにはしないでほしい。

博士は。

約束した。

13人全員が「反対」した

パーク博士は。

O5評議会へ提案を出す。

内容は。

財団としては。

異例のものだった。

SCP-6113の機密指定を解除する。

収容活動をやめる。

この異常を。

世界中のトランスジェンダーの人々のために利用する。

そして。

SCP-6113-3を。

記憶処理したうえで解放する。

投票が行われた。

結果。

賛成、0。

反対、13。

全会一致。

否決。

財団は。

これまで通り。

SCP-6113を隠し。

収容することを選んだ。

守れなかった約束

翌日。

パーク博士は。

少女の部屋を訪れる。

そして。

約束を守れなかったことを伝えた。

財団は湖を見つける。

そして収容する。

少女は。

怒った。

泣いた。

何か月も話をして。

ようやく信じた人間に。

結局。

自分は情報を得るために利用された。

博士も。

否定できなかった。

自分は彼女を利用した。

ほかの大人たちと同じように。

そう認める。

二人は。

しばらく泣いた。

そして最後に。

少女は。

博士を抱きしめた。

財団は、誰を守ったのか

SCP-6113は。

財団という組織の。

少し違う側面を見せる。

財団の理念は。

確保。

収容。

保護。

危険な異常から。

人類を守る。

だが。

異常が。

人を救うものだった場合。

話は変わる。

この記録で。

財団が守ったものは。

命だけではない。

「世界はこういうものだ」という、正常性そのものだった。

超常的な湖が存在しない世界。

人間の身体が一夜で変わらない世界。

説明できない存在が。

誰かを救わない世界。

それを維持するためなら。

救われた人の記憶さえ。

書き換える。

そこで。

問いが残る。

「普通」を守ることは、本当に人を守ることと同じなのだろうか。

そうめん
そうめん

今回は、どっちが怪異なのか分かんなくなるな。

司書
司書

湖も、そこへ導く存在も。確かに異常です。

そうめん
そうめん

でも、一番怖いことをしたのはそっちじゃない。

司書
司書

そう読める記録ですね。

そうめん
そうめん

助けられた人を元に戻すんじゃなくて、その事実ごと消すのか。

司書
司書

正常な世界を守るために。

そうめん
そうめん

……正常って、誰が決めたんだろうな。

司書
司書

その問いに。

司書
司書

財団は答えません。

司書
司書

ただ収容手順だけが残ります。

司書
司書

異常を隠し。

司書
司書

記憶を消し。

司書
司書

世界を昨日と同じ姿に戻す。

司書
司書

たとえ。

司書
司書

昨日より幸せになれた誰かがいたとしても。

司書
司書

今夜の記録はここまでです。

司書
司書

また次の資料でお会いしましょう。

資料・出典

SCP-6113「Temporary Reflections」は、Dr Asteria氏によってSCP Foundationで公開されている創作作品です。原典では、トランスジェンダーの人々を未知の湖へ導き、本人が望む性別への身体的変化をもたらすSCP-6113-1およびSCP-6113-2と、その出来事を経験した12歳の少女SCP-6113-3、彼女を担当するジェームズ・パーク博士の記録が描かれています。本記事ではそれらをもとに、「危険ではない異常まで収容する理由は何か」「正常性を守ることは、人を守ることと同じなのか」という視点から整理・考察しています。SCP-6113およびSCP Foundationに関する記述は創作上の設定です。

原典:SCP-6113 — Temporary Reflections / Dr Asteria(SCP Foundation、CC BY-SA 3.0)

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