
ようこそ、深夜資料室へ。
空が曇っている。
ただそれだけなら、
人は少し気分を落とすだけでしょう。
洗濯物が乾かない。
夕方が早く来たように感じる。
そんな日もある。
ですが。
もしその雲が、
決して流れず、決して晴れず、少しずつ地上へ近づいてくるものだったら。
今夜の資料はSCP-3649。
通称、
圧倒的曇天。
空を覆った一つの雲と、
その下で終わっていく世界の記録です。

曇天って言葉がここまで嫌に聞こえることある?
SCP概要

SCP-3649は、
地球の表面に対して静止したまま存在する巨大な雲です。
ただの雲ではありません。
他の雲と衝突すると、それを取り込むように拡大します。
さらにSCP-3649を通過した電磁波や有形物質は、
劣化、あるいは分解されます。

雲というより、空に浮いてる分解装置じゃん。

そして問題は、
それが大きくなるだけでなく、
高度を下げていくことです。

……下がってくるの?

はい。
空にあるうちは天候異常です。
ですが地表に届けば、
それはもう天気ではありません。
押せない文書
報告書には、いくつもの関連文書が並んでいる。
予備的異常評価。
航空機消失の分析。
機動部隊の遠征報告。
住民移転の提言。
国家元首への通達。
要注意団体との交信。
衛星システムからの最終送信。
だが、それらは読めない。
折りたたみはない。
リンクもない。
そこにあるのは、
文書の題名だけだ。

え、読めないの?

読めません。
そこがこの作品の仕掛けです。
普通のSCP記事なら、
補遺や記録を開いて詳細を読みます。
ですがSCP-3649では、
読者は題名だけを見て、
何が起きたのかを想像するしかありません。

情報を隠されてるのに、
逆に状況が分かってくるの嫌だな。
タイトルだけで進む終末

最初は局地的な異常でした。
ネブラスカ州。
航空機の消失。
住民移転。
記憶処理。
この段階ではまだ、
財団がいつものように対処できるように見えます。

いつものようにって言い方もだいぶ麻痺してるけどな。

しかし関連文書の題名は、
すぐに規模を広げていきます。
北アメリカ。
南アメリカ。
ヨーロッパ。
アフリカ。
アジア。
そして、全世界。
雲は広がる。
財団は隠す。
雲は下がる。
財団は通達する。
雲はなお広がる。
財団は協力を求める。
やがて、
連絡すべき相手そのものが消えていく。

文章の中身がないのに、
流れだけでだいぶ終わってるのが分かるな。

むしろ中身がないからこそ、
読者は空白を埋めてしまうのです。
財団が何をしたのか、読者は全部読めない

SCP-3649の面白いところは、
世界の終わりを長々と描写しない点です。
兵器実験。
異常存在とのクロステスト。
社会保全計画。
地上退避。
あらゆる対策が題名として並びます。
しかし本文はありません。

めちゃくちゃ読みたいのに。

そうですね。
ですが、読めないことにも意味があります。
もし全ての作戦内容が細かく書かれていたら、
読者は一つ一つを追いかけたでしょう。
成功したのか。
失敗したのか。
誰が判断したのか。
けれどこの作品は、
そこを省く。
残されるのは、
何をしても止まらなかったという事実だけです。

説明がないのに絶望だけ残るの、ずるいな。
「地表面」への遠征
文書の題名は、さらに奇妙なものへ変わっていく。
機動部隊の遠征報告。
対象地域は、ネブラスカ州ではない。
北アメリカでもない。
地球。
地表面。
空の下にあったはずの場所が、
いつの間にか遠征先になっている。

地表面に遠征って何だよ。
普通に住む場所だろ。

その普通が失われたのでしょう。
雲が下がり続ければ、
地上は生活圏ではなくなります。
そこへ行くこと自体が作戦になる。

空が敵になると、
地面まで敵地になるのか。

ええ。
この作品は派手な断末魔を描きません。
ただ文書名の並びだけで、
人類が地表から押し出されていく様子を見せてくるのです。
圧倒的曇天という題名

でもさ。
「圧倒的曇天」ってタイトル、
最初はちょっと変な言葉に見えるよな。

ええ。
ですが読み終えると、
これ以上ない題名に感じられます。
曇天はただの天気です。
けれどこの雲は、
人類の対策も、
財団の記録も、
国家も、
他の異常存在さえも、
上から押しつぶすように覆っていく。
まさに、
圧倒的です。
晴れない空。
降らない雨。
逃げ場を奪う雲。
そして、
何も開かない関連文書。
そこに書かれていたはずの物語は、
もう雲の向こう側にある。
まとめ

SCP-3649は、
雲の異常性だけで読ませる作品ではありません。
読者が目にするのは、
開けない文書と、
題名だけで進んでいく終末です。
だから私たちは想像します。
その会議で何が話されたのか。
その遠征で何が起きたのか。
なぜ通信は途絶えたのか。
なぜ地表面が遠征先になったのか。
答えは示されません。
けれど、分かってしまう。
世界はもう、ほとんど終わっている。
SCP-3649が見せるのは、
空が灰色になる恐怖ではなく、
灰色の空の下で、
人類の選択肢が一つずつ消えていく感覚です。

今夜の記録はここまでです。
また次の資料でお会いしましょう。
出典
作品名:SCP-3649「Overcast and Overwhelming」
著者:Pedantique
訳者:C-Dives
日本語版:
http://scp-jp.wikidot.com/scp-3649
原作:
http://www.scp-wiki.net/scp-3649
SCP Foundation:
https://scp-wiki.wikidot.com/
ライセンス
本記事はCC BY-SA 3.0ライセンスのもと公開されているSCP Foundationの設定・文章を引用・翻案しています。
ライセンス:
https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/

明日晴れたらちょっと空見上げるわ。

それは良いことですね。

曇ってたら?

その時は今日の記事を思い出してください。



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