
同じ夢を、世界中の知らない人たちが見るって話あるじゃん。

ありますね。

あれって本当に同じ場所だったら、ちょっと面白そうだけど。

では、その場所が滅びた都市だったら?

……嫌だな。

そこで怪我をすると、現実の身体にも同じ傷が現れます。

もっと嫌だな。

そして都市の奥には、何枚かの絵が残されています。

最後の一枚に描かれているのは――地球です。
知らない場所を、夢に見ることがある。
見たことのない街。歩いたことのない道。それでも夢の中では、不思議なほど現実に感じられる。
普通なら、目を覚ませば終わりだ。
だが世界中の人間が、何度も同じ場所を見ているとしたら。そしてそこで受けた傷が、目覚めた身体にも残るとしたら。
それをまだ「夢」と呼べるだろうか。
SCP Foundationで公開されている創作作品、SCP-3007「World of Two Artists」。
この記録に登場するのは、巨大な廃墟都市。そして、そこに残された一連の絵画だ。
誰が描いたのか。
なぜ描いたのか。
その答えを追っていくと、最後にひとつの嫌な可能性が残る。
この廃墟は、地球と無関係ではないのかもしれない。
一日に約4回、別の世界へ移る
SCP-3007-1は、世界中の人間に突然発生する現象だ。年齢、性別、人種、健康状態、職業などに明確な共通点はない。
影響を受けた人物はSCP-3007-2と指定される。
彼らは平均して一日に約4回、50分から80分ほど、まったく別の場所を知覚する。
そこがSCP-3007-3。
地球上のどこにも一致しない、巨大な都市である。
現象が始まっても、現実の身体が消えるわけではない。本人は歩くこともでき、周囲の人間とも会話できる。
ただし現実世界について認識できるのは、主に聴覚と触覚。
視覚、嗅覚、味覚は、別の都市へ置き換わる。
つまり身体はこちらにありながら、目だけは別の世界を歩いているような状態になる。
しかも。
向こうで起きたことは、こちらにも残る。
夢なら、落ちても死なないはずだった
SCP-3007-3で受けた傷は、現実の肉体にも現れる。
高所から転落すれば、現実でもその結果を受ける。実際に財団は、向こう側での転落が原因とみられる死亡例を複数確認している。
さらに奇妙なのは音だ。
SCP-3007-3で発生した音は、対象者の現実の身体から約2メートル以内にいる人間にも聞こえる。
誰もそこへ行っていないはずなのに。
存在しないはずの街の音だけが、こちら側へ漏れてくる。
それは少なくとも、単なる幻覚では説明しにくい。

じゃあ、本当にどこかにあるってこと?

財団にも断定はできません。

でも怪我もするし、音まで聞こえる。

ええ。「存在しない」と片づけるには、現実側に残るものが多すぎます。
白い都市
最初期に詳しい証言を残したのは、韓国に住む68歳の女性だった。
彼女が立っていたのは、細い吊り橋のような場所。
周囲には巨大な建造物が並んでいた。あまりに高く、上を見るためには首を大きく反らさなければならない。
地面は見えない。
無数の橋が、蜘蛛の巣のように建物同士を結んでいる。
建造物の表面は金属のように滑らかでありながら、光沢ではなく、骨のような白さをしていた。
だが街は死んでいる。
植物もない。動物もいない。人影もない。
代わりに残されていたのは、無数の死体だった。
人間に似ている。
しかし、どれも身体がおかしい。
骨が皮膚を突き破り、余分な手足のように伸びたもの。頭部が蝋のように溶けた子どもらしきもの。複数の身体を押し固めたようなもの。
彼女は説明を続けられなくなった。
そして都市の遠方には、どこからでも見える巨大な黒い柱が立っていた。
一人のイラストレーター
財団は黒い柱を調べようとした。
探索に選ばれたのが、23歳のオーストラリア人男性、SCP-3007-2GV。
彼は元イラストレーターで、非常に優れた記憶力を持っていた。
目的は単純だった。
幻視が始まったら黒い柱まで歩き、そこに何があるのかを確認する。
彼は自ら探索への協力を申し出た。
この現象を理解できれば、治療法が見つかるかもしれない。
そしていつか、この街を見なくて済むかもしれない。
彼は都市を進んだ。
橋を渡り。
死体を避け。
黒い柱へ近づいていく。
途中には、六枚の翼を持つ戦闘機らしき残骸が何十機も落ちていた。
そして高い位置から街を見た彼は、あることに気づく。
これは。
ただ滅ぼされた都市ではない。
誰かが、この世界を「弄った」
建物は崩れているだけではなかった。
丸められている。
切断されている。
押し潰されている。
まるで粘土や針金を、巨大な手で変形させたように。
戦闘機も。
死体も。
同じだった。
自然災害ではない。
戦争だけでも説明できない。
探索者は、ある感想を口にする。
ここで起きたものは、単に破壊したのではない。
この場所を玩具のように扱った。
そして黒い柱の根元には、数え切れないほどの死体が集まっていた。
互いを押し潰しながら。
全員が。
柱の上を見ていた。
柱に飾られた絵
柱の周囲には階段があった。
そして階段に沿って、何枚もの絵が飾られていた。
探索者は元イラストレーターだった。
財団は彼に、その絵を記憶するよう指示する。
最初の絵には、何かを手に持った人々と、奇妙な青い存在。そして都市に似た線が描かれていた。
次の絵には、六枚の翼を持つ航空機。
さらに進むと、都市に散乱していたものと同じ、変形した人々。
そして別の絵には、人々の脳から伸びた線が、黒い柱へつながっているような光景が描かれていた。
ばらばらだった景色が。
絵の中で。
ひとつの物語になっていく。

ちょっと待って。

その街で起きたことを、先に誰かが絵にしてたってこと?

少なくとも、絵と都市には明確な対応があります。

じゃあ描いたやつが知ってたのか。

あるいは。

絵を描いたから、そうなったのかもしれません。
最後の絵
探索者は柱を登り続けた。
頂上には、巨大な死体が横たわっていた。
人間よりはるかに大きな顔。
多数の腕。
欠損し、歪められた身体。
だが。
探索者が本当に怯えたのは、その死体ではなかった。
死体の下に。
最後の絵があった。
まだ完成していないように見える。
それでも。
彼には何が描かれているのか分かった。
地球だった。
そこで幻視は終わる。
彼は現実へ戻った。
そして記憶をもとに、柱で見た絵を描き直した。
だから、この作品には二人の芸術家がいる。
滅びた都市に絵を残した、正体不明の誰か。
そして。
それを私たちの世界へ描き直した、一人のイラストレーター。
絵は「記録」なのか、「予告」なのか
ここから先は、原典が明言していない部分になる。
最後の地球は、何を意味するのか。
最も単純に読めば。
廃墟となった世界に起きたことが、次は地球で起こる。
そういう予告にも見える。
だが絵が「起きたことを記録している」のか、「これから起こることを描いている」のかは分からない。
もっと嫌な可能性もある。
絵そのものが、描いた世界を現実にしているのかもしれない。
だからこそ。
最後の地球は完成していない。
まだ途中だから。
こちらの世界も、まだ残っている。
そんな読み方さえできてしまう。
記録することは、安全なのか
深夜資料室では、さまざまな記録を扱っている。
文章。
写真。
映像。
そして絵。
普通、記録は過去に起きたものを残すためにある。
出来事が先にある。
そのあとに、誰かが記録する。
しかしSCP-3007では、その順番が分からなくなる。
都市が滅びたから、絵が描かれたのか。
絵が描かれたから、都市が滅びたのか。
そして最後には。
まだ滅びていない地球まで描かれている。
もし絵が記録ではなく設計図なら。
私たちは。
すでに誰かの作品の中にいるのかもしれない。

じゃあ、地球の絵を消せばいいんじゃない?

向こう側にある原画へ、こちらから触れられる保証はありません。

じゃあ描き直した方は?

それも難しいところです。

なんで?

もし「描くこと」に意味があるのなら。

再現した時点で。

こちら側にも同じものを作ってしまった可能性があります。

……描かない方がよかった?

分かりません。

記録しなければ、私たちは何も知らなかった。

記録したからこそ。

知ってしまった。

ただ。

最後の絵がまだ完成していないのなら。

少なくとも今夜は。

まだ続きを描かれていないようです。

今夜の記録はここまでです。

また次の資料でお会いしましょう。
資料・出典
SCP-3007「World of Two Artists」は、Zhange氏によってSCP Foundationで公開されている創作作品です。原典では、世界中の人々が共通して知覚する廃墟都市SCP-3007-3、その内部で受けた損傷が現実の身体にも反映される現象、黒い柱に残された一連の絵画、そして元イラストレーターによる探索と再現が描かれています。本記事では原典で明示されている事実と解釈を分け、「絵は滅びを記録しているのか、それとも生み出しているのか」という視点から整理・考察しています。SCP-3007およびSCP Foundationに関する記述は創作上の設定です。
原典:SCP-3007 — World of Two Artists / Zhange(SCP Foundation、CC BY-SA



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