「世界で一番の宝物」は、いつまで宝物でいられるのか――SCP-120-JPと変わっていく価値

奇妙な記録
そうめん
そうめん

子どもの頃、めちゃくちゃ大事にしてたものってある?

司書
司書

ありますよ。

そうめん
そうめん

俺もあった気がする。でも今となっては、何だったかすら怪しいな。

司書
司書

では、その品物の側にも気持ちがあったとしたら?

そうめん
そうめん

……急に捨てづらくなる話やめてくれない?

司書
司書

捨てられることより、もっと怖いことがあるかもしれません。

そうめん
そうめん

何?

司書
司書

大切ではなくなることです。

子どもの頃、世界で一番大切だったもの。

ぬいぐるみ。

石ころ。

カード。

海岸で拾った貝殻。

大人から見れば、ほとんど価値がないものだったかもしれない。

それでも子どもにとっては、本物の宝物だった。

枕元に置く。

話しかける。

外へ出かけるときにも持っていく。

なくせば泣く。

ところが十年、二十年と時間が経つ。

いつの間にか、その宝物は棚の奥へ移動する。

そして、ある日ふと思う。

なぜ自分は、これをあんなに大切にしていたのだろう。

物は何も変わっていない。

変わったのは、それを見る人間のほうだ。

もし、その宝物自身が。

自分の価値が失われていくことを理解していたとしたら。

そんな少し奇妙で、少し寂しい創作がある。

SCP-120-JP――「世界で一番の宝石」。

自分を「世界で一番偉い」と信じている貝殻

SCP-120-JPは、SCP Foundation日本支部で公開されている創作作品だ。

その外見は、およそ15センチほどのクモガイの貝殻。

だが、ただの貝殻ではない。

知性を持ち、人間と言葉を交わすことができる。

そして自分自身を、とてつもなく価値のある存在だと考えている。

本人いわく、「深き海とそびえる山を統べる偉大なる王」。

その自尊心は、単なる性格では済まない。

周囲に自分を極めて高価なものだと認める人間がいなくなったり、その人物から長時間観察されなくなったりすると、巨大で暴力的な存在を出現させる。

財団は高価な品と一緒に保管した。

宝石や貴金属で飾った。

高価なものだと人間に信じ込ませることも試みた。

それでも、うまくいかない。

人間はいつか気づくからだ。

どれほど立派なケースへ入れても。

どれほど高価そうに飾っても。

目の前にあるもの自体の価値が変わったわけではない。

そうめん
そうめん

めんどくさい王様だな。

司書
司書

かなり。しかも自分の価値を認めてもらえないと、実力行使に出ます。

そうめん
そうめん

じゃあ、どうやって大人しくさせるんだ?

司書
司書

一人だけ、とても相性のいい人間がいました。

少女にとっては、ただの「ヤドカリさん」だった

この貝殻は、もともと一人の少女が近所の海岸で拾ったものだった。

少女の名はアイリ。

彼女だけは、この奇妙な存在と円滑に会話することができる。

そして彼女は、尊大な自称をほとんど気にしない。

彼女にとって彼は「ヤドカリさん」だった。

巨大な存在が暴れていても、アイリが話しかければ収まる。

世界で一番偉い王を名乗る存在に対して、彼女は普通に話す。

学校の話をする。

勉強の話をする。

ゲームをしたいから早く戻って、と急かすことさえある。

それでも彼は、彼女の言うことには応じる。

ここが、この資料の面白いところだ。

財団は「価値」を金額として作ろうとした。

高価なものだと思わせようとした。

だが少女は、おそらくそんなことをしていない。

彼女にとって大切だったから、大切にした。

値段ではなく、関係そのものが価値になっていた。

「高いもの」と「大切なもの」は同じではない

私たちは物の価値を数字で表すことに慣れている。

百円。

一万円。

百万円。

数字が大きくなれば、価値も高くなったように感じる。

だが、値段と大切さは必ずしも一致しない。

子どもが海岸で拾った貝殻には、市場価値などほとんどないかもしれない。

それでも本人にとっては、高価な宝石より大切なことがある。

逆に、非常に高価な品でも。

持ち主に何の思い入れもなければ、「高いもの」でしかない。

値段は他人と共有できる。

だが「宝物かどうか」は、その人にしか決められない。

そうめん
そうめん

じゃあ財団が何億円の価値があるって言い続けてもダメなのか。

司書
司書

「高価だと思っていること」と「大切に思っていること」は、少し違いますからね。

そうめん
そうめん

アイリは値段なんか考えてない。

司書
司書

ええ。だからこそ、本当の意味で宝物だったのでしょう。

でも、子どもは大人になる

ここまでなら、不思議な友情の話として終わることもできる。

だが、この資料には避けられない問題が残されている。

アイリは成長する。

財団もそれを心配している。

現在は彼女との会話によって事態を収めることができる。

しかし、成長すれば価値観は変わる。

子どもの頃に世界の中心だったものが、大人になっても同じ場所にあるとは限らない。

新しい友人ができる。

好きな人ができる。

仕事をする。

家庭を持つかもしれない。

新しい宝物が増えていく。

それは裏切りではない。

忘恩でもない。

成長するということは、大切なものの順番が変わっていくことでもある。

そして、この貝殻自身もそのことに気づいている。

世界で一番であり続けることはできない

原典の終盤。

彼は紙と筆記具を求め、自分の思いを書き残そうとする。

そこにあるのは、暴力的な怪物を呼び出す尊大な王とは少し違う姿だ。

アイリがいつか大人になること。

それを止められないこと。

今は自分が彼女にとって世界で一番の宝物でも、いつか別の宝物を見つけること。

彼は、それを理解している。

自分の価値を認めない者に怒り続けてきた存在が。

最も自分を大切にしてくれた人間についてだけは。

いつか自分が「一番」ではなくなる未来を受け入れようとしている。

そうめん
そうめん

なんか急に切なくなってきたな。

司書
司書

ずっと世界で一番でいたかったはずなのに。

そうめん
そうめん

でもアイリが大人になるのは止めないんだ。

司書
司書

止めてしまえば、宝物ではなくなってしまうのかもしれません。

大切なものが変わることは、失うことなのか

昔好きだったものを、今は好きではない。

昔いつも一緒だった人と、今は会っていない。

昔は毎日使っていたものが、今は押し入れに入っている。

それを見ると、ときどき申し訳ないような気持ちになる。

あんなに大切だったのに。

忘れてしまった。

だが。

今も一番大切でなければ、昔大切だったことまで嘘になるのだろうか。

そんなことはない。

大切なものが変わることと、過去の価値が消えることは別だ。

子どもの頃に抱いて眠ったぬいぐるみを、今は押し入れにしまっていても。

当時それが安心を与えてくれた事実は変わらない。

もう遊ばなくなった友人との時間も。

閉店した店で過ごした時間も。

今そこにないからといって、価値までなくなるわけではない。

宝物は、永遠に「一番」でなくてもいい。

思い出の中なら、変わらない

人間そのものは変わる。

価値観も変わる。

生活も変わる。

大切なものも増えていく。

だが思い出の中には、変わらない時間がある。

十歳の自分が大切にしていたものは。

三十歳になった自分が忘れかけていたとしても。

十歳だったその瞬間には、確かに世界で一番だった。

その過去まで書き換わるわけではない。

だから彼が最後に求めた「価値」は、値札とはまったく違うものだったのかもしれない。

高価なケースでもない。

宝石の装飾でもない。

誰かに十億円の価値があると信じてもらうことでもない。

いつか大人になったアイリが。

さらにその先の誰かへ。

「子どもの頃、ヤドカリさんっていう大切な友達がいたんだよ」と話す。

そのとき。

彼はもう「高価な貝殻」ではなく、誰にも値段をつけられない宝物になっている。

そうめん
そうめん

最初は「俺は世界で一番価値がある」って暴れてたのにな。

司書
司書

ええ。

そうめん
そうめん

最後に欲しかったのは、値段じゃなかったんだ。

司書
司書

おそらく。誰かの人生の中に、自分が残ることだったのでしょう。

あなたの「世界で一番」は、今どこにあるだろう

もし実家へ帰る機会があれば。

昔の自分の部屋を少し探してみてほしい。

机の引き出し。

押し入れ。

古い箱。

そこには、今のあなたなら買おうとも思わないものが残っているかもしれない。

傷だらけのおもちゃ。

色褪せたカード。

どこで拾ったのかも分からない石。

値段をつければ、ほとんどゼロかもしれない。

それでも。

かつてのあなたにとって、それが世界で一番だったのなら。

その価値は、本当にゼロになったのだろうか。

もしかすると宝物というものは。

永遠に持ち続けるものではなく。

いつか思い出になったとき、初めて完成するものなのかもしれない。

そうめん
そうめん

……実家の押し入れ、ちょっと漁りたくなったわ。

司書
司書

捨てる前に、一度くらい思い出してあげてください。

そうめん
そうめん

値段はつかないと思うけどな。

司書
司書

宝物に、値札は必要ありませんよ。

司書
司書

今夜の記録はここまでです。

司書
司書

また次の資料でお会いしましょう。

資料・出典

SCP-120-JP「世界で一番の宝石」は、SCP Foundation日本支部で公開されている創作作品です。本記事では、原典に描かれるSCP-120-JPと少女アイリの関係をもとに、深夜資料室独自の視点から「値段と価値の違い」「成長によって変化する大切なもの」「思い出の中に残る価値」について考察しています。SCP-120-JPおよびSCP Foundationに関する記述は創作上の設定です。

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