
ようこそ、深夜資料室へ。
今夜の資料は、
ある研究員の記録です。
異常存在として収容された一人の女性。
危険だから。
周囲へ被害を出すから。
そう判断された人物です。
ですが。
この記録を読み終えた時。
あなたはきっと、
別の疑問を抱くでしょう。
本当に異常だったのは誰だったのか。
SCP概要
SCP-8980。
リリアン・マーリー。
元は財団職員でした。
優秀な研究者。
将来を期待されていた職員です。
ですが。
ある異常性が発見されます。
彼女が電子機器を使用すると、
周囲で事故や故障が発生する。
機材は壊れる。
研究は失敗する。
人が怪我をする。
財団は判断しました。
危険であると。
そして。
彼女は収容対象になりました。

まぁ説明だけ聞くなら、
収容されても仕方ない気はするな。

ええ。
最初は誰も疑いませんでした。
理解者
彼女には担当研究者がいました。
バーンズ博士。
上司。
教育係。
相談相手。
そして監督者。
記録の上では、
リリアンを支える存在です。

よかったじゃん。
一人くらい味方がいたんだな。

そう見えるのです。
小さな約束
収容生活の中で、
リリアンはバーンズへ頼み事をします。
カレンダーが欲しい。
今日が何日か分かるようにしたい。
それだけでした。
バーンズは答えます。
『分かった。』
『用意しておこう。』
ですが。
次の面談でも、
カレンダーはありません。
また頼む。
また約束する。
また来ない。
そして不思議なことに。
リリアンは怒りません。
責めません。
謝ります。

待て。
謝るのそっちじゃないだろ。
約束を忘れてるのはバーンズの方じゃないか。

多くの読者が、
最初に違和感を覚える場面です。
全部リリアンのせい
事故が起きる。
リリアンのせい。
機械が壊れる。
リリアンのせい。
研究が失敗する。
リリアンのせい。
誰かが困る。
リリアンのせい。
もちろん。
本当に異常現象は起きています。
ですが。
読んでいるうちに、
別の疑問が生まれます。
なぜ毎回、
同じ結論になるのか。
なぜ毎回、
彼女だけが責任を負うのか。

なんか嫌な感じしてきたな。
証拠があるからじゃなくて、
最初から犯人が決まってるみたいだ。

その感覚こそが重要です。
記録の違和感
記録を読み進める。
すると。
リリアンは謝る。
萎縮する。
怯える。
自信を失う。
ですが。
それさえも異常性の一部として扱われる。
苦しんでいる。
だから異常。
混乱している。
だから異常。
泣いている。
だから異常。

待てよ。
それ普通の人間でもそうなるだろ。
閉じ込められて、
責められ続けたら誰だって壊れる。

ええ。
ですが一度『異常』というラベルが貼られると、
その人間らしささえ症状として扱われるのです。
正しさの形をした支配
バーンズは怒鳴りません。
殴りません。
脅しません。
全て研究のため。
全て安全のため。
全て管理のため。
正しい言葉を使います。
だから周囲も疑わない。
ですが。
リリアンだけは少しずつ壊れていく。

これさ。
怪物の話じゃないよな。
人間の話だろ。
しかも悪意むき出しの奴じゃない。
自分が正しいと思ってる人間の話だ。

その通りです。
本当に異常だったのは何か
SCP-8980は、
異常存在の記録です。
ですが。
読み終えた時。
読者の頭に残るのは、
電子機器の故障ではありません。
リリアンでもありません。
一人の人間が。
そして一つの組織が。
誰かを『異常』だと決めてしまった時、
何が起きるのか。
その過程です。

最初は危険な異常存在の話だと思ったんだ。
でも違った。
リリアンが怖いんじゃない。
周りが怖い。

それこそが、
この作品が読者へ残す感情なのです。
まとめ
SCP-8980は、
異常存在として収容された研究員の記録です。
ですが。
本当に語られているのは、
超常現象ではありません。
人間です。
組織です。
そして。
正しさの名の下で行われる支配です。
誰かを異常だと決める。
その人の言葉を疑う。
その人の苦しみを症状として扱う。
そうしているうちに、
人は簡単に壊れてしまう。
だからこの作品は、
怪物の話よりも怖い。
読者は最後に、
異常存在より恐ろしいものを見つけてしまうからです。

今夜の記録はここまでです。
また次の資料でお会いしましょう。
出典
作品名:SCP-8980
著者:Placeholder McD
原文:SCP Foundation
URL:https://scp-wiki.wikidot.com/scp-8980
ライセンス
本記事は、SCP Foundation掲載作品「SCP-8980」(著者:Placeholder McD)をもとにした解説記事です。
原文はCC BY-SA 4.0の下に公開されています。
本記事も同ライセンスに従います。
おまけ

なぁ。
もし最初に誰か一人でも、
『君は悪くない』って言えてたら。
何か変わったのかな。

だからこそ。
この記録は読む者に問いを残すのです。
人を壊すのは、
怪物だけではありませんから。



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