SCP-548-JP――雨の日にだけ開かれる、最後の演奏会

SCP資料
司書
司書

ようこそ、深夜資料室へ。

雨の音が好きな人は少なくありません。

窓を叩く音。

屋根を叩く音。

静かな夜に聞こえる雨音には、不思議と心を落ち着かせる力があります。

ですが。

もしその雨音が、誰かの演奏だったとしたら。

もしその演奏が、もう二度と叶わないはずだった夢の続きだったとしたら。

今夜の資料はSCP-548-JP。

通称『歌う雨音』。

ですが今夜考えたいのは、この傘がどんな異常性を持つのかではありません。

なぜ多くの読者が、この作品を「怖い話」ではなく「優しい話」として記憶しているのか。

その話です。

雨が降る。

誰も気に留めないほど当たり前の音。

けれどその日。

一つの傘だけが、雨ではなく音楽を奏でていた。

SCP概要

そうめん
そうめん

今回は傘なんだよな?

最近の流れだと途中で人食ったりしない?

司書
司書

安心してください。

今回は最後まで傘です。

ただし少し変わった傘ですが。

SCP-548-JPは雨が当たることでピアノの演奏を行うビニール傘です。

しかもただ演奏するだけではありません。

褒められれば上達し、

拍手されればさらに美しく演奏し、

悪意を向けられると演奏を乱します。

そうめん
そうめん

なんかもう犬とか猫みたいだな。

司書
司書

財団職員も似たような感想を抱いたようです。

実験記録にはこんな一文があります。

「悪意には悪意で返すあたり、人間的な反応が見られます。」

― SCP-548-JP実験記録より

そうめん
そうめん

傘の報告書で『人間的』って出てくるの、だいぶ変だぞ。

司書
司書

ええ。

そしてその違和感こそが、この物語の始まりです。

誰の演奏だったのか

事故報告書は冷たい。

日時。

場所。

被害者。

数行で終わる。

けれどその数行の向こうには、必ず誰かの人生がある。

司書
司書

調査によって、この傘の持ち主が判明します。

彼女は若いピアニストでした。

コンクールへ向かう途中、交通事故によって命を落とします。

そして彼女が演奏する予定だった曲。

それがショパンの

『別れの曲』

でした。

そうめん
そうめん

あ。

だから最初に演奏してたのが別れの曲だったのか。

司書
司書

そうです。

ここで読者は初めて気付きます。

これは異常な傘の話ではない。

夢の途中で終わってしまった少女の話なのだと。

上手くなりたい。

もっと弾きたい。

もっと聞いてほしい。

その願いは、とても人間らしい。

たとえ姿を失ったとしても。

財団職員たちは何を見たのか

司書
司書

548-JPを語るうえで重要なのは、少女だけではありません。

むしろ私は、財団職員たちの方が印象的だと思っています。

そうめん
そうめん

職員?

司書
司書

最初は研究対象として扱っています。

当たり前です。

財団ですから。

ですが実験記録を読んでいくと、少しずつ空気が変わる。

研究者たちは演奏を聞く。

感想を言う。

拍手する。

励ます。

そして気付けば、

収容対象ではなく、一人の演奏者として接している。

そうめん
そうめん

あー……

それはちょっと分かるかも。

司書
司書

報告書を読んでいると、いつの間にか財団職員たちも観客になっているのです。

それがこの作品の温かさです。

最後の演奏会

雨が降らない日が続く。

音楽は少しずつ弱くなる。

かつて響いていた旋律は、次第にか細くなっていく。

まるで何かが消えようとしているように。

司書
司書

大寒波の影響で長期間雨が降らなくなります。

すると548-JPの演奏能力は急速に衰え始めました。

財団は理解します。

このままでは演奏が終わる。

だから彼らは決断しました。

コンサートを開くのです。

そうめん
そうめん

マジでやるんだ。

司書
司書

ええ。

研究のためではありません。

収容のためでもありません。

一人の演奏者のためです。

会場には大勢の職員が集まった。

拍手があった。

賞賛があった。

アンコールがあった。

それは異常存在の実験ではなかった。

どこにでもある演奏会だった。

ただし、演奏者だけが少し違った。

司書
司書

そして最後。

548-JPは一曲だけ演奏します。

「別れの曲」

― SCP-548-JP最終演奏記録より

そうめん
そうめん

それはずるいわ。

反則だろ。

司書
司書

私もそう思います。

演奏を終えた後。

548-JPは異常性を失います。

まるで。

やり残した本番を終えたかのように。

なぜこの作品は愛されるのか

司書
司書

さて。

ここで一つ質問です。

もし人生最大の舞台を目前にして、全てが終わってしまったら。

あなたは何を望みますか。

そうめん
そうめん

一回くらいはやらせてくれって思うな。

せめて本番だけでも。

司書
司書

私もそう思います。

548-JPが愛される理由。

それは怪異が優しいからではありません。

少女が可哀想だからでもありません。

財団職員たちが、その願いを理解したからです。

研究対象だったはずの存在に拍手を送り。

最後の舞台を用意した。

だから読者もまた拍手を送りたくなるのです。

まとめ

司書
司書

SCP-548-JPは、歌う傘の話です。

ですが本当に描かれているのは傘ではありません。

夢の途中で終わった少女と、

その夢を最後まで見届けた人々の物語です。

だからこの作品は恐怖ではなく、

どこか温かい読後感を残します。

そして最後の演奏会で。

少女はようやく本番を終えられたのかもしれません。

司書
司書

今夜の記録はここまでです。

また次の資料でお会いしましょう。

出典

作品名:SCP-548-JP「歌う雨音」

著者:salicylic_acid

原作:
https://scp-jp.wikidot.com/scp-548-jp

SCP Foundation:
https://scp-wiki.wikidot.com/

ライセンス

本記事はCC BY-SA 3.0ライセンスのもと公開されているSCP Foundationの設定・文章を引用・翻案しています。

ライセンス:
https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/

そうめん
そうめん

今度雨降ったらさ。

ちょっと傘に拍手してみるわ。

司書
司書

周囲の視線にはお気を付けください。

そうめん
そうめん

そっちが現実の恐怖だな。

コメント