SCP-1762――なぜ『ここにはもう竜はいない』はこれほど切ないのか

SCP資料
司書
司書

ようこそ、深夜資料室へ。

昔の地図には、未知の海域へ向かう船乗りたちへの警告が記されることがありました。

“Here Be Dragons.”

――ここには竜がいる。

それは危険を示す言葉でした。

けれど同時に、人間がまだ知らない何かが存在するという希望の言葉でもあったのです。

今夜の資料はSCP-1762。

一つの箱と、そこから現れる折り紙の竜たちの記録です。

この作品はしばしば「泣けるSCP」として語られます。

ですが私が印象に残ったのは、ドラゴンたちの最期そのものではありません。

彼らが最後に残した、ある問いでした。

今夜はその記録を辿ってみましょう。

SCP概要

司書
司書

SCP-1762は銀色に塗装された段ボール箱です。

箱の蓋にはこう書かれていました。

“HERE BE DRAGONS”

つまり、

「ここには竜がいる」。

箱を開くと黒い煙が現れ、その中から折り紙でできた小さなドラゴンたちが姿を現します。

彼らは人間に対して非常に友好的でした。

そうめん
そうめん

待って。

最近のSCPで友好的って聞くと逆に怖いんだけど。

司書
司書

気持ちは分かります。

ですが彼らは本当に友好的でした。

財団職員と遊び、交流し、そして箱の向こうの世界へ帰っていく。

それが当たり前の日常だったのです。

そうめん
そうめん

平和だなぁ。

司書
司書

ええ。

少なくとも最初は。

ドラゴンたちの世界

箱の向こうには、ドラゴンたちが暮らす世界が存在していました。

彼らはそれを「Fantasy」と呼びます。

財団職員たちはドラゴンたちと手紙を交わし、その世界について少しずつ知るようになりました。

そこにはドラゴンだけではありません。

巨人がいました。

ケンタウロスがいました。

鳥たちがいました。

数えきれないほどの不思議な存在たちが暮らしていました。

ドラゴンたちは財団職員を歓迎します。

友人として。

家族として。

まるでずっと昔から知っていた相手のように。

そうめん
そうめん

なんか不思議だな。

ドラゴン側はすごく親しげなんだね。

司書
司書

そうですね。

しかし財団側には分からないこともありました。

彼らは頻繁に、

「Family」

「Belief」

「Agreement」

といった言葉を使うのです。

ですが、その意味は最後まで明かされません。

世界の終わりが始まるやがて異変が起こります。

ドラゴンたちの数が少しずつ減り始めたのです。

最初は誰も気にしませんでした。

ですが手紙の内容は変わっていきます。

Fantasyの世界が暗くなっている。

何かがおかしい。

誰かが怒っている。

そんな報告が増えていくのです。

そうめん
そうめん

嫌な予感しかしないな。

司書
司書

読者の多くも、この辺りで気付きます。

これはドラゴンとの交流記録ではなく、

終わりへ向かう記録なのだと。

Fantasyは少しずつ壊れていきます。

理由は語られません。

敵の正体も分かりません。

ただ確かなのは、

世界そのものが死につつあるということだけでした。

最後の竜

そしてある日。

傷だらけの一匹のドラゴンだけが箱から現れます。

そのドラゴンは短い言葉を残しました。

“War. Goodbye, friends.”

戦争。

さようなら、友よ。

それだけを伝えて。

ドラゴンは息絶えます。

そうめん
そうめん

……え。

司書
司書

その後、箱から現れるのはドラゴンではなくなります。

炎。

紙片。

焼け焦げた残骸。

まるで向こう側の世界が崩壊している様子だけが流れ込んでくるかのようでした。

かつて賑やかだった箱は、

世界の最期を伝える窓になってしまったのです。

最後の手紙

数か月後。

財団は箱の中から最後の手紙を発見します。

そこには、

巨人は死んだ。

ケンタウロスは死んだ。

鳥たちは去った。

そう記されていました。

Fantasyはもう安全ではない。

私たちの世界は終わる。

ドラゴンたちはそう告げます。

ですが。

彼らが本当に伝えたかったことは別にありました。

最後の手紙には、こう書かれていました。

We love you.

We will not Forget you.

Will You Forget Us?

私たちはあなたたちを愛しています。

私たちはあなたたちを忘れません。

あなたたちは私たちを忘れますか?

そうめん
そうめん

……。

司書
司書

不思議な問いです。

世界が滅びようとしている時に。

彼らが恐れていたのは死だったのでしょうか。

それとも別の何かだったのでしょうか。

なぜこの物語はこれほど切ないのか

この作品には様々な解釈があります。

想像力の死。

子供時代との別れ。

空想世界の終焉。

どれも有名な解釈です。

ですが私が印象に残ったのは別の部分でした。

ドラゴンたちは最後まで、

自分たちが死ぬことについて語りません。

むしろ彼らが気にしていたのは、

自分たちを覚えていてくれるかどうかです。

そうめん
そうめん

確かに。

最後の言葉もそこだったね。

司書
司書

ええ。

だから私は時々考えるのです。

人は死ぬと消えるのでしょうか。

それとも忘れられた時に消えるのでしょうか。

ドラゴンたちは最後まで人間を覚えていました。

だから最後に、

Will You Forget Us?

と尋ねたのかもしれません。

『HERE WERE DRAGONS』が意味するもの

最後の手紙が届けられた後。

箱は異常性を失います。

そして蓋の文字が変化していました。

かつては、

HERE BE DRAGONS

だった文字が。

HERE WERE DRAGONS

へと変わっていたのです。

ここには竜がいる。

ではなく。

ここには竜がいた。

そうめん
そうめん

過去形か……。

司書
司書

ええ。

とても短い変化です。

ですが、その一文字がすべてを物語っています。

そこに確かに存在したもの。

共に過ごした時間。

そして失われた世界。

そのすべてが、

“WERE”

という一語に閉じ込められているのです。

まとめ

司書
司書

SCP-1762はドラゴンの物語です。

けれど同時に、

失われたものの物語でもあります。

最後の問いに正解はありません。

ドラゴンたちは本当に消えてしまったのか。

忘れられてしまったのか。

それともまだどこかにいるのか。

ですが少なくとも今夜、

私たちは彼らの記録を読み返しました。

それはつまり。

まだ完全には忘れていないということなのかもしれません。

司書
司書

今夜の記録はここまでです。
また次の資料でお会いしましょう。

出典

作品名:SCP-1762 – Where The Dragons Went

作者:OZ Ouroboros

原典:https://scp-wiki.wikidot.com/scp-1762

SCP Foundation:https://scp-wiki.wikidot.com/

ライセンス

SCP-1762 “Where The Dragons Went” by OZ Ouroboros is licensed under Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License.

SCP Foundation is licensed under CC BY-SA 3.0.

そうめん
そうめん

司書、ドラゴンって本当にいなくなったのかな。

司書
司書

どうでしょう。

そうめん
そうめん

じゃあ、どこへ行ったんだろ。

司書
司書

少なくとも今夜は、ここにいました。

そうめん
そうめん

え?

司書
司書

私達は今、彼らの話をしていましたから。

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