Candle Cove(キャンドル・コーヴ)|存在しない子ども番組を「覚えている」人々

奇妙な記録

そうめん
そうめん

子どもの頃に見た番組って、意外と覚えてるよね。内容は忘れてても、妙に怖かった場面だけ残ってたり。

司書
司書

では、その番組を覚えている人が他にも現れたら?

そうめん
そうめん

あ、自分だけじゃなかったんだって安心するかも。

司書
司書

問題は、その番組が本当に放送されていたのか、という点です。

Candle Cove

「Candle Cove(キャンドル・コーヴ)」は、2009年に作家・漫画家のKris Straubによって発表されたインターネット・ホラー作品です。

物語は一般的な小説の形ではありません。

舞台となるのは、昔のテレビ番組について語るインターネット掲示板。

そこへ、ある利用者が一つの質問を書き込みます。

子どもの頃に放送されていた「Candle Cove」という番組を覚えている人はいないか。

1970年代初頭。

彼がまだ幼かった頃に見ていたという、海賊を題材にした子ども向けの人形番組でした。

「その番組、覚えている」

最初は曖昧な記憶しかありませんでした。

ところが書き込みを見た別の利用者が反応します。

自分もその番組を覚えている。

さらに別の人物も現れます。

一人だけの記憶だったはずの番組が、掲示板上で少しずつ輪郭を取り戻していきました。

主人公はジャニスという少女。

海賊の人形たちが登場し、奇妙な船とともに冒険をする。

古い地方局で作られた、少し安っぽい子ども番組。

最初は、そんな思い出話にしか見えません。

思い出すほど、おかしくなる

しかし、記憶が具体的になるにつれて、番組の内容は子ども向けとは思えないものへ変わっていきます。

登場人物の不自然な動き。

子どもを怖がらせるような人形。

そして「Skin-Taker」と呼ばれる、明らかに子ども番組には似つかわしくない存在。

さらに彼らは、ある異様な回について語り始めます。

物語らしい物語はない。

人形たちは苦しむように動き続け、ただ叫び声だけが響いている。

子どもの頃、それを見て泣いた。

不思議なのは、その記憶まで複数の人間が共有していたことでした。

そうめん
そうめん

待って。昔のテレビ番組の思い出話じゃなかったの?

司書
司書

少なくとも、彼らにとっては思い出です。

母親の記憶

掲示板でのやり取りが進んだあと、一人の利用者が自分の母親にCandle Coveについて尋ねます。

子どもの頃、自分が見ていたあの番組を覚えているか。

母親は、息子がテレビの前に座っていたこと自体は覚えていました。

しかし。

母親の記憶には、海賊も、人形も、Candle Coveという番組も存在していません。

彼女が覚えていたのは、幼い息子がテレビの前に座り、何も映っていない砂嵐の画面を長いあいだ眺めていたことでした。

では、彼らは何を見ていたのか

Candle Coveの恐怖は、怪物そのものではありません。

複数の人間が、存在しないはずのものについて同じ記憶を持っていることにあります。

単なる記憶違いだったのでしょうか。

幼い頃に見た別々の番組や悪夢が混ざり、偶然似た記憶になったのでしょうか。

それなら、なぜ彼らは同じ名前を知っていたのでしょう。

そして母親が見ていた「砂嵐」の向こうで、子どもたちは何を見ていたのでしょうか。

Candle Coveは実在したのか

ここは、この記録を読むうえで重要な部分です。

Candle Coveは実在したテレビ番組ではありません。

2009年、Kris Straubが自身のホラー作品サイト「Ichor Falls」で発表したフィクションです。

作品は掲示板への書き込みを模した形式で作られており、その後さまざまな場所へ転載・共有されました。

作者自身も後年のインタビューで、作品が別の場所へ広がり、実際の掲示板上で会話を再現する人まで現れたことを語っています。

つまり興味深いのは、物語の中だけではありません。

「存在しない番組について、人々が語り合う」というフィクションがインターネット上へ放たれ、その出典を知らない人々の目にも触れていった。

作品そのものが、作中で描かれた現象に少し似た広がり方をしたのです。

なぜCandle Coveは怖いのか

子どもの頃の記憶は、完全ではありません。

昔見たテレビ番組。

名前の思い出せないキャラクター。

なぜ怖かったのか説明できない映像。

誰にでも、そうした曖昧な記憶が一つくらいあるのではないでしょうか。

Candle Coveは、その空白を利用しています。

「もしかすると自分も、忘れているだけなのではないか」

そう思わせる余地が残されている。

そして何より怖いのは、テレビに何が映っていたのかではありません。

大人には砂嵐しか見えていなかった時間に、子どもたちには確かに何かが見えていた。

その可能性だけが、最後まで説明されずに残されています。

まとめ

Candle Coveは、インターネット怪談の中では珍しく作者と出自が明確な作品です。

それでも長く語られてきた理由は、「存在しない番組」という設定だけではないのでしょう。

誰かの曖昧な記憶に、別の誰かが「自分も覚えている」と答える。

その瞬間、個人の記憶だったものは共有された記録になります。

たとえ、その記録の始まりが存在しないものだったとしても。

そうめん
そうめん

じゃあ結局、子どもたちは何を見てたんだろう。

司書
司書

記録上、テレビに映っていたのは砂嵐だけです。

そうめん
そうめん

……「テレビには」、ね。

司書
司書

ええ。それ以上のことは、記録されていません。

出典・参考

本記事は、Kris Straubによるホラー作品「Candle Cove」の内容・成立背景について、公開情報をもとに紹介・考察したものです。Candle Coveは実在のテレビ番組・実話ではありません。

  • Kris Straub「Candle Cove」/Ichor Falls(2009)
  • Kindertrauma「Kinterview :: Candle Cove Creator Kris Straub」(作者インタビュー)
  • Atlas Obscura「Do You Remember Candle Cove?」(2016)

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