名前――なぜ名前には力があるのか

怪異記録

怪異記録概要

司書
司書

ようこそ、深夜資料室へ。

今夜の資料は名前です。

そうめん
そうめん

急に地味になったな。

司書
司書

では質問です。

もしこの資料室にいる全員が、

そうめんさんの本名を知っていたらどう思いますか?

そうめん
そうめん

……帰る。

司書
司書

なぜですか?

そうめん
そうめん

いやなんか嫌だろ。

司書
司書

面白いですね。

名前はただの呼び名のはずです。

ですが人は昔から、

名前に特別な力があると考えてきました。

今夜はその理由を辿ってみましょう。

言葉には力がある

司書
司書

日本には古くから、

言霊という考え方があります。

そうめん
そうめん

聞いたことあるな。

司書
司書

言葉には力が宿る。

発した言葉が現実へ影響を与える。

そう考えられていました。

そうめん
そうめん

じゃあ名前もその一つか。

司書
司書

ええ。

名前は最も強い言葉の一つだったのかもしれません。

祝福の言葉。

呪いの言葉。

祈りの言葉。

人は昔から、

言葉が人の運命へ触れると信じていました。

その中でも名前は、

特別な意味を持つ言葉だったのです。

本当の名前を隠す理由

司書
司書

昔の日本では、

本当の名前を簡単には呼びませんでした。

そうめん
そうめん

そうなのか?

司書
司書

ええ。

武士には幼名や通称がありました。

本当の名前は、

限られた相手にしか明かされないこともあったのです。[/s15]

そうめん今の感覚だと不思議だな。

司書ですが考えてみてください。

名前は相手を呼ぶためのものです。

逆に言えば、

名前を知るということは、

相手へ辿り着く手段を得るということでもあります。

そうめん
そうめん

なるほどな。

住所みたいなもんか。

司書
司書

だからこそ、

名前は守るべきものだったのです。

ただの呼び名ではなく、

その人自身の一部として扱われていました。

真名という考え方

司書
司書

世界中の神話や伝承には、

奇妙な共通点があります。

そうめん
そうめん

共通点?

司書
司書

本当の名前を知られると、

支配されるという考え方です。

そうめん
そうめん

ファンタジーでよく見るな。

司書
司書

妖精。

悪魔。

精霊。

神。

姿も文化も違います。

ですが。

本当の名前を握られると力を失う。

そう語られる存在は非常に多いのです。

そうめん
そうめん

なんでそんなに共通してるんだろうな。

司書
司書

人は昔から、

名前と存在を同じものだと考えていたのかもしれません。

相手の真名を知ることは、

相手の本質へ触れることだったのでしょう。

名前を呼ばれても返事をするな

司書
司書

日本の怪談には、

奇妙な共通点があります。

そうめん
そうめん

なんだ?

司書
司書

夜道。

山の中。

人気のない場所。

そんな場所で名前を呼ばれても、

返事をしてはいけない。

そう語られてきました。

そうめん
そうめん

あー。

聞いたことある。

司書
司書

振り返ってはいけない。

返事をしてはいけない。

なぜなら、

相手が誰なのか分からないからです。

そうめん
そうめん

でも反射で返事しそうだぞ。

司書
司書

だから怖いのです。

本当に知人なのか。

人間なのか。

あるいは別の何かなのか。

それは返事をするまで分かりません。

そうめん
そうめん

返事した時点で遅いかもしれないのか。

司書
司書

そう語られる怪談は少なくありません。

呪いにはなぜ名前が必要なのか

そうめん
そうめん

そういえば呪いも名前書くよな。

司書
司書

ええ。

藁人形も。

呪符も。

創作の呪いも。

多くは名前を必要とします。

そうめん
そうめん

確かに。

司書
司書

なぜなら呪いにも、

宛先が必要だからです。

そうめん
そうめん

宅配便みたいに言うな。

司書
司書

届かなければ意味がありませんから。

顔だけでは曖昧です。

ですが名前があれば、

誰を対象にするのかを定められる。

だから多くの呪術では、

名前が重要視されたのでしょう。

名前を呼ぶ怪異

司書
司書

逆に。

名前を呼ぶこと自体が危険だと考えられた例もあります。[/s15]

そうめんどういうことだ?

司書神。

妖怪。

悪霊。

そうした存在の名前を、

むやみに口にしてはいけない。

そう考える文化です。

そうめん
そうめん

名前を呼ぶと来るってやつか。

司書
司書

ええ。

名前は、

対象へ繋がる道だと考えられていたのかもしれません。

だからこそ、

恐ろしいものの名は避けられました。

呼ぶこと自体が、

存在を認めることになるからです。

SNS時代の名前

そうめん
そうめん

でも今って真逆だよな。

司書
司書

と言いますと?

そうめん
そうめん

昔は名前隠してた。

今は自分で出してる。

司書
司書

確かにそうですね。

本名。

顔。

職業。

住んでいる場所。

現代人は昔の人が恐れた情報を、

自ら公開することもあります。

そうめん
そうめん

昔の人からしたら卒倒しそうだな。

司書
司書

ええ。

ですが興味深いことに、

私達は今でも名前を大切にしています。

そうめん
そうめん

そうか?

司書
司書

SNSのアカウント名。

ハンドルネーム。

配信者名。

芸名。

名前が変われば、

受け取られ方も変わります。

そうめん
そうめん

確かに。

名前って結構大事だな。

司書
司書

最も名前の力を信じているのは、

現代人なのかもしれません。

なぜ名前には力があるのか

そうめん
そうめん

結局。

名前そのものに力があるのか?

司書
司書

おそらく名前はただの言葉です。

ですが。

人は名前に意味を与えます。

そうめん
そうめん

意味か。

司書
司書

名前を知る。

相手を覚える。

特別な存在になる。

そうして名前は、

ただの音ではなくなっていくのです。

そうめん
そうめん

だから昔の人も怖がったのか。

司書
司書

ええ。

名前を知られることは、

自分への道を開くことだったのかもしれません。

ただの音でありながら、

人と人を結び付けてしまう。

だからこそ、

名前は特別だったのでしょう。

まとめ

司書
司書

言霊。

本当の名前を隠す文化。

真名。

名前を呼ぶ怪異。

そして現代のSNS。

名前はただの呼び名でありながら、

古くから特別な力を持つものとして扱われてきました。

そうめん
そうめん

ちょっと本名知られるの嫌な理由が分かった気がするな。

司書
司書

それは自然な感覚かもしれません。

名前とは、

その人そのものに最も近い言葉なのですから。

今夜の記録はここまでです。

また次の資料でお会いしましょう。

出典

・言霊信仰に関する日本民俗学資料

・諱(いみな)および実名敬避俗に関する歴史資料

・真名(True Name)に関する神話・民俗伝承

・名前を呼ぶ怪異に関する各地の伝承資料

・呪術と命名に関する民俗学資料

おまけ

そうめん
そうめん

司書って本名あるのか?

司書
司書

ありますよ。

そうめん
そうめん

教えてくれ。

司書
司書

それは無理ですね。

そうめん
そうめん

なんでだよ。

司書
司書

名前には力がありますから。

そうめん
そうめん

絶対ただ隠したいだけだろ。

コメント