
こいつ、有名なやつだよな。腐った老人みたいな。

SCP-106。「The Old Man」と呼ばれる存在です。

壁をすり抜けるんだっけ?

ええ。壁も床も、普通の檻では意味がありません。

じゃあ、どうやって捕まえるんだよ。

財団には方法があります。

お。

人間を一人、餌にします。
怪物を閉じ込める。
それだけなら、SCP Foundationでは珍しい話ではない。危険な存在を収容し、人類から隔離する。それが財団の役割だからだ。
だが、その怪物が普通の壁を通り抜けるとしたら。触れたものを腐らせ、好きな場所から消え、自分だけの世界へ逃げ込めるとしたら。
どんな檻を作っても、完全には閉じ込められない。
そこで財団は発想を変えた。
逃げられない檻を作るのではない。
逃げた怪物が、自分から戻ってくるものを用意する。
SCP Foundationで公開されている創作作品、SCP-106「The Old Man」。
これは恐ろしい怪物の記録であると同時に、その怪物を収容し続けるため、人間がどこまで残酷になれるのかを記した資料でもある。
腐敗した老人
SCP-106は、高齢の人間に似た姿をしている。
ただし、その身体はひどく腐敗しているように見える。外見には多少の変化があるものの、この「腐っている」という特徴だけは一貫している。
動きは、それほど速くない。
何日も動かず、獲物を待ち続けることさえある。壁を登り、天井から逆さまにぶら下がった状態で待機することもできる。
だから、俊敏な怪物ではない。
それでも危険なのは。
そもそも、私たちと同じ空間のルールに従う必要がないからだ。
壁も床も、意味がない
SCP-106が固体へ触れると、そこから腐食が始まる。
金属は錆び、物質は腐り、ひび割れ、表面には黒い粘液のようなものが残される。この作用は生体組織にも及び、原典では一種の「事前消化」である可能性まで示唆されている。
さらにSCP-106は、そのまま固体の中へ沈むように消えることができる。
壁から入り、反対側から出る。
床へ消え、天井から現れる。
物理的な障害物だけでは止められない。
そして消えた先には、もうひとつの場所が存在している。
老人だけが支配する世界
財団は、その場所を一種のポケット次元と考えている。
確認できている範囲では、内部には廊下や部屋のような空間が存在する。ただし通常の方法で人間が自由に出入りできる場所ではない。
基本的に、入口を握っているのはSCP-106だ。
そして、その世界では時間、空間、さらには人間の知覚まで、SCP-106が操作できるらしい。
獲物を連れ込む。
すぐには殺さない。
長期間、生かしておくことがある。
原典が使っている表現をそのまま受け取れば、SCP-106はそこで捕らえた人間と「遊んでいる」。

食うためじゃないの?

財団もそこを観察しています。

じゃあ何のため?

原典では、空腹ではなく「欲求」に基づいて狩っているとされています。

……一番嫌なタイプじゃん。

必要だから殺すのではない。狩ること自体を楽しんでいる可能性があります。
殺すより、連れ去る
SCP-106は獲物を襲うとき、重要な臓器、筋肉、腱などを傷つけ、まず行動できなくしようとする。
そして抵抗できなくなった人間を、ポケット次元へ引きずり込む。
特に狙われやすいとされるのが、10歳から25歳ほどの人間だ。
一度の狩りで一人だけを連れ去るとも限らない。複数の人間を捕らえ、内部に長期間保持することがある。
そして、ごくまれに。
連れ去られた人間が戻されることもある。
原典には、ある財団エージェントの写真が残されている。
彼が行方不明になっていた時間は、わずか二時間。
帰還後。
彼が生きていられたのは、さらに一時間だけだった。
どうやって閉じ込めるのか
当然、財団は何度も収容方法を変更している。
鉛を含む金属を何層にも重ねる。各層の間に空間を設ける。支持構造を複雑かつ不規則にする。液体を利用する。そして強烈な光を瞬間的に照射できる設備も用意する。
SCP-106は鉛を通過するときにわずかな抵抗を示し、複雑で無秩序な構造では出入りが遅れる。液体も一時的に混乱させ、突然の強い光を避ける傾向がある。
つまり財団が作っているのは。
絶対に破れない檻ではない。
少しでも逃げにくくするための、巨大な迷路だ。
実際、それでもSCP-106は脱走する。
そして脱走したとき。
財団は、もっと確実な方法を使う。
怪物を呼び戻す方法
原典には「Recall Protocol」と呼ばれる手順が記録されている。
SCP-106が脱走した場合。
財団は10歳から25歳の人間を一人用意する。
その人物を、誘引用の対象として使う。
方法は明確に記されている。
大腿骨のような長い骨を折る。
あるいは、アキレス腱のような主要な腱を切断する。
そして。
その人物が発する苦痛の声を、施設内の放送設備から流す。
SCP-106は通常、その声を聞いてから10分から15分ほどで誘引対象へ向かい始める。
反応しなければ。
20分ごとに、さらに身体的な損傷を加える。
必要なら。
複数人を使う。

……待って。

怪物がやってるんじゃなくて、財団がその人を傷つけるの?

ええ。

助けるためじゃなく?

怪物を呼び戻すためです。

それ、その人はどうなるんだよ。

少なくとも、この手順の目的は。

その人を救うことではありません。
一人と、その先にいる何人か
ここからは、SCP-106という怪物そのものから少し離れて考えてみたい。
財団の判断には、理由がある。
SCP-106を放置すれば、何人が連れ去られるか分からない。壁も扉も役に立たず、施設外へ出れば被害はさらに拡大する。
だから一人を犠牲にしてでも、怪物を誘き戻す。
数字だけで考えれば、合理的なのかもしれない。
一人を失う。
その代わりに、十人を救う。
百人を救う。
もっと多くを救う。
しかし。
その計算式の左側に置かれた一人にとっては。
自分の人生が「必要経費」として処理される。
そこに、SCP-106とは別の怖さがある。
怪物と財団の違い
SCP-106は、人間の苦痛を利用する。
人を傷つけ。
動けなくし。
自分の世界へ連れていく。
財団もまた。
人間の苦痛を利用する。
人を傷つけ。
動けなくし。
その声で怪物を誘う。
もちろん、目的は違う。
SCP-106は狩りを楽しむ。
財団は被害を抑えるために行う。
その違いは大きい。
それでも。
誘引用の部屋に横たわっている人間から見れば。
自分を傷つけている手が。
怪物のものか。
人類を守る組織のものか。
その違いに。
どれほど意味があるのだろう。
収容とは、きれいな仕事ではない
SCP Foundationという創作世界では、「確保・収容・保護」という言葉が繰り返される。
だがSCP-106の記録を読むと、「保護」という言葉の裏側にあるものが見えてくる。
すべての人を救えるとは限らない。
何かを止めるために。
誰かを切り捨てる。
そして、その判断をする人間自身は。
檻の外にいる。
怪物は分かりやすい。
腐った姿をしている。
人を連れ去る。
苦しませる。
だから怪物だと分かる。
難しいのは。
正しい目的のために行われる残酷さを、私たちは何と呼べばいいのか。
SCP-106は、その問いに答えない。
ただ。
収容違反が起きるたび。
同じ手順だけが残されている。

じゃあ結局、財団は間違ってるの?

簡単には言えません。

一人を使わなかったら、もっと死ぬかもしれない。

ええ。

でも、その一人からしたら知ったこっちゃないよな。

そこが、この記録の怖さです。

怪物を閉じ込める方法が。

必ずしも、人間らしい方法とは限らない。

……もしまた逃げたら?

檻を直します。

放送設備を準備します。

そして。

条件に合う人間を一人、連れてきます。

怪物が戻ってくるまで。

今夜の記録はここまでです。

また次の資料でお会いしましょう。
資料・出典
SCP-106「The Old Man」は、Dr Gears氏によってSCP Foundationで公開されている創作作品です。原典では、腐食作用を持ち、固体を通過して独自のポケット次元へ人間を連れ去るSCP-106と、それを収容するために何度も改訂された収容手順が記録されています。特に脱走時のRecall Protocolでは、人間を意図的に負傷させ、その苦痛の声を利用してSCP-106を誘引する方法が記されています。本記事ではこれらをもとに、「多数を守るために一人を犠牲にすることはどこまで許されるのか」という視点から整理・考察しています。SCP-106およびSCP Foundationに関する記述は創作上の設定です。
原典:SCP-106 — The Old Man / Dr Gears(SCP Foundation、CC BY-SA)



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