Lake City Quiet Pills|画像サイトの裏側に隠されていた「仕事の依頼」

奇妙な記録

今回の記録には、「実際にネット上へ残された記録」と、そこから生まれた「推測」が混在しています。

「秘密の暗殺者ネットワークが存在した」と確認された事件ではありません。

ただし、その推測が生まれるきっかけとなったサイトも、そこに残された奇妙な文章も、実際にネット上で確認されたものです。

司書
司書

今回の記録は、最初に一つだけ注意しておきましょう。

この話には、

「実在した記録」と、

「ネット上で組み立てられた推測」が混在しています。

そうめん
そうめん

つまり、全部本当って話じゃない?

司書
司書

ええ。

ただし――

調べるきっかけになったサイトも、そこに残されていた奇妙な文章も、実際にネット上で確認されたものです。

そうめん
そうめん

……その言い方が一番嫌なんだよ。

始まりは、一人のRedditユーザーだった

2000年代後半。

まだ現在ほど巨大になる前のRedditに、ReligionOfPeace(レリジョン・オブ・ピース)というユーザーがいました。

略して、ROP。

本人は「Milo(マイロ)」と呼ばれていたとされます。

彼はかなり癖の強いユーザーでした。

軍隊。

銃器。

海外での仕事。

過去の軍歴を思わせる話。

そうした話題について頻繁に書き込んでいたのです。

本人の語る経歴がどこまで事実だったのかは、現在も確認できていません。

ただ、Reddit上にReligionOfPeaceという人物が存在し、長期間活動していたこと自体は、後から作られた設定ではありません。

そして2009年7月。

そのアカウントの投稿が止まります。

その日のうちに、別のユーザーがRedditへ現れました。

名前は、2-6。

彼が投稿したのは、ReligionOfPeaceについての知らせでした。

マイロが死んだ。

79歳だったというのです。

「彼は今日、死んだ」

2-6は、自分がマイロに画像サイト用のスペースを提供していた人物だと説明しました。

マイロには身寄りがほとんどなく、自宅の机で亡くなっているところを見つけた。

猫は近所の少女に引き取ってもらった。

葬儀らしい葬儀もしない。

遺灰は、かつて彼の農場があった場所の近くへ持っていく。

そんな内容でした。

ネット上でしか知らない人物の訃報。

本来なら、それだけで終わっていたはずです。

しかし、ユーザーたちは気づきます。

この2-6という人物と、亡くなったReligionOfPeaceには、妙な共通点がある。

文章の癖。

スペルミス。

軍事関係の話。

さらに調査すると、Redditより古いニュース・コミュニティ「Fark」に、AngelTwo-Six(エンジェル・ツー・シックス)というユーザーが存在していたことが分かります。

そのアカウントは、2001年から活動していました。

そしてプロフィールに登録されていた連絡先には、ある名前が含まれていました。

lakecityquietpills.com

Lake City Quiet Pills。

ここから、話がおかしくなっていきます。

Lake City Quiet Pills

LakeCityQuietPills.com。

直訳すれば、「レイクシティの静かな錠剤」。

意味の分からない名前です。

しかし、軍事や銃器に詳しい人間なら、別の連想ができます。

アメリカには、Lake City Army Ammunition Plant(レイクシティ陸軍弾薬工場)という実在の施設があります。

米軍向けを含む小火器弾薬の生産で知られる施設です。

そして「pill(ピル/錠剤)」を弾丸になぞらえる表現を重ねると、Lake City Quiet Pillsという名前は、まったく違う意味に見えてくる。

「レイクシティ製の、相手を静かにする薬」

つまり、弾丸。

AngelTwo-Sixが使っていた文言にも、「Lake City Quiet Pillsを配る」という物騒なニュアンスの表現が確認されています。

そうめん
そうめん

待って。

サイト名からもう殺し屋っぽいじゃん。

司書
司書

そう見えるようにはできています。

そうめん
そうめん

……「見えるようには」?

司書
司書

そこは最後まで忘れないでください。

それらしいことと、事実であることは別です。

表向きは、ただの画像置き場だった

では、LakeCityQuietPills.comとは何だったのか。

表向きには、かなり単純なサイトでした。

画像ホスティングサービス。

画像をアップロードして、そのURLを掲示板などへ貼る。

当時としては珍しいものではありません。

Redditでも実際に利用されていました。

ただし、保存されていた画像には成人向け・性的なものも多く、このサイト自体が健全な一般向けサービスだったわけではありません。

普通なら、ここで話は終わります。

変な名前の、小さな画像サイト。

ところが2010年。

Redditユーザーが、このサイトを詳しく調べ始めます。

そして、ページのソースコードを開いた。

ブラウザに表示されているページではありません。

そのページを作っている、HTMLの中身です。

そこで――

普通にサイトを見ているだけでは表示されない文章が見つかりました。

表から見えない「掲示板」

隠されていた文章は、単なる開発者向けのメモには見えませんでした。

複数人が、互いに連絡を取り合っているように読める。

そして、その内容が妙だった。

例えば、特定の言語を話せる人間を募集する文章。

イタリア語。

スペイン語。

ポルトガル語。

一定期間の仕事。

人数指定。

渡航条件らしきもの。

報酬を思わせる数字。

そして、軍や警備関係の人間が使っているようにも読める言葉。

まるで――

仕事の募集掲示板。

しかも、普通の利用者からは見えない場所に置かれている。

「なぜ画像サイトのHTMLに、こんな文章が隠されている?」

ネット上の調査は、ここから一気に加速しました。

「4人。イタリア語かスペイン語」

発見された文章の中には、かなり具体的なものもありました。

たとえば、イタリア語またはスペイン語を話せる人間を4人。

別の記録では、ポルトガル語を流暢に話せる人間を5人。

期間は6か月。

「private gig(プライベート・ギグ)」――民間の仕事、とでも訳せる表現。

他にも、特定地域への移動や、条件を満たす人員を探しているように読める文章が残されていました。

もちろん、これだけなら警備会社や民間軍事会社の人員募集とも考えられます。

海外の要人警護。

船舶警備。

施設警備。

軍事経験者が必要になる民間の仕事は、現実に存在します。

しかし、問題はその掲載場所です。

なぜ、求人サイトではなく、成人向け画像まで置かれていた小規模な画像ホストのソースコードに隠す必要があるのか。

しかもサイト名は、Lake City Quiet Pills。

この組み合わせから、一つの説が生まれました。

「これは傭兵たちの連絡場所なのではないか」

調査していた人々が考えたのは、こういう構図でした。

ReligionOfPeaceことマイロは、元軍人。

2-6も軍関係者。

彼らには、軍や警備業界につながる人脈がある。

表向きは画像サイトを運営する。

しかし、ソースコードの中では、仲間へ仕事を回している。

そして募集されているのは、単なる警備員ではない。

武装した民間軍事要員――あるいは、暗殺などを請け負う人間なのではないか。

ここから、Lake City Quiet Pillsは、ネット上で「殺し屋の求人サイト」、あるいは「傭兵たちの秘密掲示板」ではないかと噂されるようになります。

ただし――

Lake City Quiet Pillsが実際に暗殺者を仲介していたと証明された事実はありません。

確認できるのは、奇妙な文章が存在したこと。

そして、それが軍事・警備系の仕事を思わせる内容だったこと。

その先は、ネット上の推測です。

そうめん
そうめん

でもさ。

わざわざ隠して募集してる時点で怪しくない?

司書
司書

怪しい。

それは間違いありません。

そうめん
そうめん

じゃあ――

司書
司書

ですが、

「怪しい」から「暗殺者である」までは、かなり距離があります。

死亡報告と、サイトの文章

さらに不気味なのが、マイロの死亡です。

2009年7月17日。

Redditでは、2-6がマイロの死を報告しました。

ところが、Lake City Quiet Pills側にも、マイロの死について書かれた文章が残されていました。

内容は、Redditへ投稿された死亡報告とよく似ています。

マイロが亡くなったこと。

猫を近所の少女へ渡したこと。

遺灰を、昔の土地の近くへ持っていくこと。

つまり、RedditのReligionOfPeace。

2-6。

Lake City Quiet Pills。

この三つは、完全に無関係だったわけではない。

少なくとも同じ人物、あるいは同じ集団につながる痕跡があった。

だからこそ、単なるネット上の作り話として簡単には片づけられませんでした。

そして「パーティー」の告知

サイトには、さらに別の文章もありました。

マイロの死後、彼の遺産に関する手続きが終わったことを祝うような、集まりの告知です。

日時。

場所。

参加者への案内。

酒や食事についての記述。

一見すると、亡くなった仲間を偲ぶ集まりにも見えます。

しかし、それまでに見つかった「仕事募集」と合わせて読むと、調査していた人々には別のものに見えました。

これは、同じ仕事をしていた仲間たちの集会なのではないか。

世界各地から、元軍人や契約要員が集まるのではないか。

そして、この集まりの後、サイトに残されていた奇妙な連絡は、次第に途絶えていきます。

現実の暗殺事件と結びつけられる

2010年1月。

アラブ首長国連邦・ドバイ。

高級ホテルの一室で、ハマス幹部のマフムード・アル=マブフーフ(Mahmoud al-Mabhouh)が死亡しているのが発見されました。

後にドバイ警察は、監視カメラ映像などから、複数の人物が関与した暗殺事件として捜査します。

そして、ネット上の一部の調査者が、Lake City Quiet Pillsの記録と、この事件を結びつけ始めました。

サイトにあった人員募集。

複数言語。

海外での仕事。

その後に発生した、複数人による国際的な暗殺事件。

「Lake City Quiet Pillsで募集されていた人間は、この作戦に参加したのではないか?」

そんな説が生まれたのです。

しかし、証拠はない

ここは、この記録で最も重要な部分です。

Lake City Quiet Pillsと、マブフーフ暗殺事件を直接結びつける証拠は、確認されていません。

サイトに書かれた募集内容と、実際の事件を結ぶ名簿が見つかったわけでもない。

参加者の名前が一致したわけでもない。

報酬の送金記録が発見されたわけでもない。

「時期や条件が似ている」というところから発展した説です。

後から出来事を並べれば、意味があるように見えることはあります。

それは、インターネットミステリーを扱うときに、最も注意しなければならない部分でもあります。

そうめん
そうめん

じゃあ「殺し屋サイトだった」は言い過ぎなのか。

司書
司書

少なくとも、事実として書くことはできません。

そうめん
そうめん

でも、あの隠し文章は残る。

司書
司書

そうなんです。

そこが、この話が消えない理由でしょう。

そもそも、マイロは本当に何者だったのか

さらに根本的な問題があります。

ReligionOfPeaceが語っていた、自分自身の経歴です。

彼は高齢の軍経験者として振る舞い、非常に長い軍歴を思わせる話をしていました。

しかし、その経歴には不自然な部分があると指摘されてきました。

年齢。

入隊時期。

本人が語る経験。

それらを並べると、辻褄が合わない部分がある。

そもそも、「マイロ」という人物像そのものが、どこまで現実の一人の人間を反映していたのかも確定していません。

2-6。

AngelTwo-Six。

ReligionOfPeace。

複数の名前。

複数のサイト。

似た文章。

同じような軍事知識。

それらが、本当に別々の人間だったのか。

あるいは、一人の人物が複数の人格を使い分けていたのか。

それすら、完全には分かっていません。

では、ARGだったのか

ここまで作り込まれているなら、最初からインターネット上のゲーム――

ARG(代替現実ゲーム)

だったのではないか。

そう考えることもできます。

架空の元軍人。

死亡報告。

怪しい画像サイト。

ソースコードに隠された求人。

軍事用語。

複数のアカウント。

確かに、ネットミステリーとしては出来すぎています。

しかし、典型的なARGとも少し違います。

明確なスタート地点がない。

「謎を解いてください」という誘導もない。

ゴールもない。

最後に答えを明かす制作者も現れない。

そして何より、この謎が注目される以前から、関係するアカウントには長期間の活動履歴がありました。

だから、単純に「全部ARGでした」とも断定できない。

一方で、「本物の傭兵組織でした」と証明するものもない。

どちらへ進んでも、最後の一枚が足りない。

もっと単純な説明もできる

そして、忘れてはいけない可能性があります。

これは、軍事関係の仕事を経験した人間たちが、仲間内で遊んでいただけなのではないか。

元軍人特有のジョーク。

大げさな経歴。

内輪だけに通じる言葉。

軍事用語を使ったロールプレイ。

仲間への普通の警備仕事の紹介。

それらが、外部の人間から見ると、「秘密の傭兵ネットワーク」に見えただけ。

もし本当に違法な暗殺を請け負う秘密組織なら、なぜ一般人が使う画像サイトのHTMLへ、ここまで分かりやすい文章を残すのか。

なぜRedditやFarkで、長年にわたって痕跡を残すのか。

秘密組織として考えると、あまりにも不用心です。

それでも残るもの

では、Lake City Quiet Pillsは何だったのか。

確認できるところまで戻ってみましょう。

ReligionOfPeaceというRedditユーザーがいた。

その死亡を2-6という人物が報告した。

LakeCityQuietPills.comという画像サイトが存在した。

過去の別アカウントにも、そのドメインとのつながりがあった。

サイトの表からは見えない場所に、複数の奇妙な文章が置かれていた。

そこには、外国語を話せる人員。

海外。

期間。

仕事。

軍や警備業務を連想させる条件が書かれていた。

ここまでは、ネット上に残された記録から追うことができます。

しかし、その仕事が何だったのか。

誰が応募したのか。

実際に何が行われたのか。

そして、マイロたちは本当に何者だったのか。

そこから先が、分からない。

そうめん
そうめん

なんか、変な話だな。

作り物なら作り物で、最後に誰か出てきて答えを教えてくれればいいのに。

司書
司書

ええ。

ですが、この記録にはそれがありません。

そうめん
そうめん

じゃあ結局、何だったんだ?

司書
司書

それを説明してくれる人が、最後まで現れなかったんです。

ネットに残った「裏口」

Lake City Quiet Pillsには、怪物も出てきません。

呪われた動画もありません。

画面から何かが飛び出してくることもない。

あるのは、昔のRedditアカウント。

小さな画像サイト。

そして、普通なら誰も開かないHTMLの中に残された文章。

それだけです。

けれど、もし2010年の誰かが、あのページのソースコードを開かなかったら。

あの文章は、誰にも知られないまま消えていたかもしれません。

本当に、ただの悪趣味な遊びだったのか。

元軍人たちの内輪の連絡だったのか。

民間警備の求人だったのか。

それとも、もっと別の仕事だったのか。

現在まで、決定的な答えは確認されていません。

だからこの記録には、「実はこうでした」という盛大な結末はありません。

残っているのは、一つの事実だけです。

誰かが、画像サイトの見えない場所を使って、人を集めていた。

そして、何のために集めていたのかは――

今も分かっていません。

出典・参考

  • Redditに残されたReligionOfPeace、2-6、およびLake City Quiet Pillsに関する当時の投稿・アーカイブ
  • Farkに残されたAngelTwo-Sixの活動記録
  • LakeCityQuietPills.comの保存記録・ソースコードに残されたメッセージ
  • Lake City Quiet Pillsについて後年行われた各種検証・記録
  • マフムード・アル=マブフーフ死亡事件に関する当時の報道・捜査情報

※Lake City Quiet Pillsが暗殺者や傭兵の仲介サイトだったこと、またサイト上の募集と特定の暗殺事件が関係していたことを裏付ける決定的な証拠は確認されていません。本記事では、ネット上に残された記録と、そこから生まれた推測を区別して紹介しています。

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