
ようこそ、深夜資料室へ。
人は時々、見てはいけないものを見たくなります。
入ってはいけない場所へ入りたくなります。
触ってはいけないものへ手を伸ばします。
今夜の記録は、そんな話です。
もしあの日。
彼らが山へ入らなければ。
もしあの柵を越えなければ。
もしあの箱を開けなければ。
そして――
もし、あの小さな棒に触れなければ。
何も起きなかったのかもしれません。
今夜の資料は『姦姦蛇螺』。
好奇心と傲慢さが招いた、ある夜の記録です。
怪異記録概要

姦姦蛇螺……名前からしてヤバそうだな。

「かんかんだら」と読みます。
2011年、2ちゃんねるのオカルト板「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」に投稿され、ネット怪談の中でも特に有名になった長編怪談のひとつです。

どんな怪物なんだ?

それを知る前に、まず三人の少年が何をしたのかを見ていきましょう。
この話では、怪異の姿そのものよりも――そこへ至るまでの行動が重要です。
三人の少年
話の投稿者である「俺」と、友人のA、そしてB。
三人は小中学生の頃から特に仲が良く、毎日のようにつるんでは荒れた生活を送っていた。
投稿者とAは、すでに家族からほとんど見放されていたという。
だが、Bは違った。
Bの母親だけは、荒れる息子を見放さなかった。
厳しく接しながらも、何かあればBのために動き続けていた。
そんな中学三年生のある日。
Bと母親は激しく衝突する。
詳しい内容をBは語らなかったが、母親を精神的にひどく傷つけたらしい。
そこへ父親が帰宅した。
服も髪も乱れ、呆然としている妻。
そして、悪びれる様子のない息子。
父親はBに尋ねた。
自分には怖いものなど何もないと思っているのか、と。
Bは答えた。
そんなものがあるなら見せてほしい。
その言葉を聞いた父親は、ある場所を教えた。
近くの山。
その麓に広がる森。
そして森の中に存在する、立入禁止区域。
そこへ入り、奥まで進んでみろ。
本当に何も怖くないのなら、そこで今と同じように暴れてみろ。
父親はそう告げたという。
それは肝試しを勧めるような軽い言葉ではなかった。
父親自身、
「これを話すのは、お前が死んでも構わないと覚悟した証拠だ」
というほどの場所だった。
だが、それでもBは引かなかった。
むしろ興味を持った。
そして投稿者とAを誘う。

いや待て。
親父さん、自分で「死んでも構わない」って言ってる場所だぞ。

それでも三人は向かいます。

ここで終われる話だったのにな。
深夜の森へ
三人が森へ向かったのは深夜だった。
立入禁止区域が存在すること自体は、三人とも以前から知っていた。
山そのものは普通に入れる。
森も普通だ。
だが、その奥にだけ、不自然に区切られた場所がある。
高さ二メートル近い柵。
太い綱。
有刺鉄線。
紙垂のような白い紙。
そして大小さまざまな無数の鈴。
森の一部分だけを囲むその柵は、誰が見ても異常だった。
ただし、この時の三人はまだそこへ到着していない。
森へ入り、立入禁止区域を目指して歩き始める。
すると途中から、妙な音が聞こえるようになった。
草木を掻き分けるような音。
何かが後ろからついてくる。
最初は動物だと思った。
しかし、やがてAが異変に気づく。
三人が歩けば、音も動く。
立ち止まれば、音も止まる。
しかも奇妙なことに、距離が変わらない。
近づいてくるわけでもない。
遠ざかるわけでもない。
森へ入ってから二十分ほど。
ずっと一定の距離を保ちながら、何かが三人についてきていた。

これ、普通に柵より怖くないか?

しかも三人は、正体を確かめない方がいいと判断しています。

そこだけ判断がまともなんだよな……。
三人は周囲を警戒しながら、そのまま進んだ。
そしてついに、問題の柵へ辿り着く。
立入禁止区域
実際に目の前で見る柵は、想像以上だった。
霊など馬鹿にしていた投稿者とAでさえ、ここで初めて思う。
この先にあるものは、現実的な理由で隠されているのではないのではないか。
本当に、何かまずいものがあるのではないか。
Aは怯んだ。
だがBだけは違った。
持ってきた道具を使い、柵を壊そうとした。
そのたびに、取り付けられた無数の鈴が激しく鳴る。
しかし柵は異常なほど頑丈だった。
持参した道具では、びくともしない。
結局、三人は柵をよじ登ることにした。
そして――
柵の内側へ降りた瞬間。
空気が変わった。
檻の中へ閉じ込められたような、強烈な閉塞感。
三人とも先へ進むことを一瞬ためらうほどだった。
そして、もうひとつ。
投稿者たちはあることに気づいた。
先ほどまで自分たちについてきていた音が、
完全に消えていた。

……やっぱり、あれって柵の中にいたんじゃないか?

Aも同じ可能性を口にしています。
ただ、この時点ではBが否定しました。
森の入口とここは離れすぎている。
柵の内側にいる何かが、最初から自分たちを追跡できるはずがない、と。

まあ……普通に考えればそうなんだけど。

普通のものなら、ですが。
六本の木
柵を越えてから、さらに二、三十分。
反対側の柵が薄く見え始めた頃。
三人は異様なものを発見する。
六本の木。
その六本だけに注連縄が張られ、さらに六本の縄によって互いに結ばれている。
出来上がっていたのは、
六角形の空間。
そして、その中央。
ぽつんと箱が置かれていた。
賽銭箱にも見える、古びた箱だった。
投稿者とAは、この場所こそBの父親が言っていたものなのだと察する。
これ以上はまずい。
そう思った。
だがBは違った。
箱に宝でも入っているのではないか。
そう言って縄をくぐり、六角形の中へ入っていく。
投稿者とAも、Bが何かしでかすことを恐れ、後を追った。

監視目的で一緒に行った結果、全員入っちゃってるじゃねえか。

ここから事態が動き始めます。
箱の中
箱は雨風にさらされ、錆びていた。
表面には家紋のようなものがいくつも描かれている。
しかも、それぞれ違う印だった。
地面に固定されているのか、持ち上げることもできない。
調べているうちに、三人は箱の後ろ側だけが外せることに気づいた。
Bがそれを取り外す。
中には四つの小さな壺。
ペットボトルのような形をした壺には、何らかの液体が入っていた。
そして中央には、
爪楊枝ほどの細さしかない、小さな棒が六本。
棒の先端は赤く塗られている。
それらは無造作に置かれていたわけではない。
六本すべてを使って、ひとつの奇妙な形を作っていた。
接する四か所にも、赤い印がある。
投稿者とAは、なるべく触れないようにした。
だがBは違う。
壺を手に取り、匂いまで嗅いだ。
そして次に、
六本の棒へ手を伸ばした。

触るな。

触ります。

分かってた。
Bが一本に指を触れる。
汗をかいていたからなのか。
棒が一瞬、指先にくっついた。
そして指を離した時、
棒の配置がずれた。
六本で作られていた形が、
崩れた。
その瞬間だった。
チリン。
チリリン。
突然、激しい鈴の音が鳴り響いた。
音がしたのは、三人が来た方向ではない。
六角形のさらに奥。
反対側の柵。
まるで何かが、
そこに触れたように。
木の陰の女
突然の鈴に三人は驚いた。
しかしBは恐怖より怒りを見せた。
誰かが自分たちを脅かしている。
そう思ったのか、鈴が鳴った方向へ走り出す。
投稿者とAは止めようとする。
だがBは突然立ち止まった。
懐中電灯を前へ向けたまま、
動かない。
身体が小刻みに震えている。
投稿者とAも、ライトが照らす先を見た。
一本の木。
その根元。
木の陰から、
女の顔が半分だけ覗いていた。
光を向けられているのに、眩しがる様子もない。
上下の歯を剥き出すように口を開き、
据わった目で、
三人を見ていた。
次の瞬間。
三人は一斉に逃げ出した。
六本の腕
来た道を戻り、柵へ向かう。
投稿者とBは先に柵を越えた。
だがAだけが、恐怖と混乱でうまく登れない。
二人は外側からAを急かす。
その時。
再び鈴が鳴った。
先ほどとは比べものにならないほど激しく。
柵そのものが揺れ始める。
何かが、
こちらへ近づいている。
そして投稿者とBは見た。
柵の向こうではない。
自分たちがいる側。
柵の外側に、
それは張りついていた。
先ほど見えた女の顔。
だが今度は、その全身が見えた。
正確には――
上半身だけが。
裸の女。
下半身はない。
そして腕が、
六本。
右に三本。
左に三本。
その六本の腕で綱と有刺鉄線を掴み、
口を開いたまま、
蜘蛛が巣を渡るように柵を伝ってくる。

いや……無理無理無理。

これが、三人が目撃した「姦姦蛇螺」と呼ばれる存在です。
ただし後に分かりますが――
厳密には、この時点で三人はまだ「本当の姿」を見ていません。
Aは柵の上から飛び降りた。
三人はそのまま森の入口へ走る。
後ろを見ることはできなかった。
ただ前だけを見て走った。
やがて入口が見える。
そこには複数の人影があった。
今度こそ追いつかれたのか。
そう思ったが違った。
そこにいたのは、三人を探していた大人たちだった。
時刻はすでに午前三時を回っていた。
帰還
三人は集会所へ連れて行かれた。
そこには家族たちが待っていた。
投稿者の母と姉。
Aの父。
そしてBの母。
普段ほとんど会話すらしていなかった投稿者の母親まで泣いていたという。
だが、この時点では三人とも無事だった。
少なくとも、
そう見えた。
家族たちはその夜、詳しい説明をしないまま解散した。
そして翌日の昼。
投稿者の家に電話がかかってくる。
Bの母親だった。
Bがおかしい。
昨夜、あそこで何をしたのか。
柵の向こうへ行っただけではなかったのか。
Bの異変
投稿者がBの家へ向かうと、Aも来ていた。
Bは帰宅後、
突然、両手両足の激痛を訴え始めたという。
四肢をぴんと伸ばしたまま、
「痛い」と叫び続けている。
部屋の外からでも、その声が聞こえた。
投稿者とAが呼びかけても反応しない。
視線すら合わせない。
ただ痛みに苦しみ続けていた。
二人がBの母親のところへ戻る。
そこで母親は静かに尋ねた。
何を見たのか。
ではなかった。
「あそこで、何をしたの?」
投稿者とAは、そこで初めて考える。
三人とも同じものを見た。
ならば「見たこと」が原因なら、自分たちにも同じ異変が起きているはずだ。
だがBだけが違う。
何が違ったのか。
箱。
壺。
そして――
六本の棒。
形を崩したのは、
Bだった。

母親はもう、何か知ってたんだな。

正確には、何かが起き得る場所だということを知る手段がありました。
Bの母親は話を聞くと、すぐに連絡を取ります。
そして事態は、三人だけでは処理できないものへ変わっていきます。
葵と伯父
その後、Bは母親とともにある場所へ移される。
投稿者とAも呼ばれた。
そこで二人は、
ひとりの男性と若い女性に会う。
男性は女性の伯父。
女性が名乗った名前は、投稿者には「あおいかんじょ」のように聞こえたという。
ただし、それは一般的な意味での名前とは違うらしい。
投稿者は便宜上、
彼女を「葵」と呼ぶことにした。
二人は投稿者とAから、
どこへ行ったのか。
何をしたのか。
何を見たのか。
その夜の出来事を細かく聞き取っていく。
そして六本の小さな棒の話になった瞬間、
伯父の態度が変わった。
動かしたのか。
形を変えたのか。
葵も確認する。
触っただけではない。
誰が、
あの形を変えたのか。
答えはBだった。
それを聞いた伯父は、
Bの母親へ告げた。
息子は、
もうどうにもならないだろう、と。
姦姦蛇螺
ここで初めて、
三人が遭遇したものについて説明される。
呼び名はいくつもあった。
「生離蛇螺」
「生離唾螺」
古くは、
「姦姦蛇螺」
「姦姦唾螺」
「なりじゃら」
「なりだら」
「かんかんじゃら」
「かんかんだら」
知る者の年代や家柄によって、呼び方は異なる。
当時では単に「だら」と呼ぶ者が多く、
伯父たちのような特殊な家柄では、
「かんかんだら」
という呼び名が使われているという。
そしてその由来は、
もはや神話や伝説に近いほど古いものとして語られていた。
大蛇と巫女
昔。
ある村が、人を喰らう大蛇に苦しめられていた。
村人たちは、
代々「神の子」と呼ばれ、特殊な力を受け継いできた巫女の家へ助けを求める。
その家は、
特に強い力を持っていたひとりの巫女を大蛇の討伐へ向かわせた。
巫女は村人たちを守るため、
大蛇へ立ち向かった。
しかし戦いの最中、
わずかな隙を突かれる。
大蛇は、
巫女の下半身を喰らった。
それでも巫女は諦めなかった。
下半身を失ってなお、
術を使い、
村人たちを守ろうと戦い続けた。
だが。
村人たちは違った。
巫女に勝ち目はない。
そう判断した彼らは、
恐ろしい選択をする。
巫女を生贄として差し出す代わりに、
村を襲わないでほしい。
大蛇へ、
そう持ちかけた。
強い力を持つ巫女を疎ましく思っていた大蛇は、
その提案を受け入れた。
そして、
巫女を食べやすくするために。
村人たちは、
巫女の腕を切り落とした。
下半身を失い。
さらに両腕を奪われ。
村を守ろうとしていた巫女は、
村人たち自身の手によって、
大蛇への生贄として差し出された。

……これ、怪異より人間の方が怖くないか。

しかも、話はここで終わりません。
十八人
巫女を差し出したことで、
村には一時の平穏が戻った。
しかし後になって、
さらに事実が判明する。
巫女を生贄にするという計画。
それを考えたのは、
巫女の家の者たちだったという。
当時、巫女の家には六人の家族が残っていた。
そして間もなく、
異変が始まる。
ある日を境に、
大蛇が姿を見せなくなった。
村を襲うものはいなくなったはずだった。
それなのに、
人が死に始めた。
村で。
山で。
森で。
見つかった遺体には、
共通点があった。
右腕か左腕。
どちらか片方が、
失われていた。
死亡したのは十八人。
その中には、
巫女の家族六人も含まれていた。
生き残った村人は、
わずか四人だった。
封印が意味していたもの
ここで、
森の中にあった奇妙なものの意味が明かされる。
六本の木。
六本の縄。
これは、
村人たち。
箱の中にあった六本の棒。
これは、
巫女の家族六人。
四隅に置かれた四つの壺。
これは、
生き残った四人。
そして、
六本の棒が作っていた、
あの奇妙な形。
あれこそが――
巫女そのものを表していた。

待って。
じゃあBが崩したのって……。

巫女を表す「形」です。

そりゃ伯父さんも絶望するわ……。
この形式がいつ、どのように作られたのか。
詳しいことは、葵たちにも伝わっていなかった。
ただ、有力とされていた説がある。
生き残った四人が、
巫女の家に残された知識を調べ、
その怨念を鎮めるために作り上げたのではないか。
それが、
あの独自の供養と封印だった。
箱は一定の周期で、
山や森の中を移され続ける。
箱に描かれていた無数の家紋のような印。
あれは、
これまで供養場所を提供してきた家々を示していた。
管理者以外には、
姦姦蛇螺について詳しいことは知らされない。
周辺住民に伝えられるのは、
「あそこには曰くがある」
ということと、
万が一の時の連絡先だけ。
だからBの母親は、
息子たちがあの場所へ行ったと知った時点で、
連絡を取ることができた。
祓うことすら危険
そして、
姦姦蛇螺は単に封印されているだけの怪異ではなかった。
伯父の家系には過去、
姦姦蛇螺を祓った者が何人かいたという。
だが、
その全員が二、三年以内に突然死亡していた。
怪異を起こした当事者も、
ほとんど助かっていない。
それほど危険な存在だった。
だから伯父は、
Bを救うことはできないと考えていた。
巫女を表す形を崩した。
そして、
姦姦蛇螺を見た。
その二つが揃ってしまった。
もう手遅れだと。
ところが。
ここで話が変わる。
見ていない
伯父は投稿者とAへ確認した。
あの姿を見たのなら、
下半身も見ただろう、と。
二人は戸惑った。
下半身?
見ていない。
三人が見た女に、
下半身などなかった。
見えたのは上半身だけ。
そして、
左右三本ずつ。
合計六本の腕。
その答えを聞いた瞬間、
伯父と葵の表情が変わった。
何度も確認される。
本当に下半身を見ていないのか。
間違いないのか。
二人がそう答えると、
先ほどまでBを救えないと言っていた伯父が、
初めて笑った。
Bは、
助かるかもしれない。
本当の姿
葵は説明した。
巫女の怨念を受ける行為は、
二つある。
ひとつ。
巫女を表す六本の棒の形を、
変えてしまうこと。
もうひとつ。
その形が表している、
巫女の姿を見ること。
本来なら、
棒を動かした時点でほぼ終わりだった。
形を崩せば、
必然的にその姿を見ることになるからだ。
だが、
三人は見ていなかった。

いや、見てただろ?
腕六本の女。

巫女本人であることには変わりません。
ですが葵によれば、
三人の前に現れたものは「姦姦蛇螺」としての姿ではなかったのです。
姦姦蛇螺と巫女。
同一の存在でありながら、
同じではない。
あの夜、
三人の前に現れたのは、
「姦姦蛇螺」ではなく、
まだ「巫女」としての姿だった。
だから、
下半身を見せなかった。
そして、
三人の命を奪うつもりもなかった。
葵は、
あの夜の出来事を、
彼女にとっての「遊び」のようなものだったのだろうと説明した。
Bを襲っている苦痛も、
本来の姦姦蛇螺による呪いではない。
だから、
時間はかかっても祓うことができる。
Bには、
助かる可能性が残っていた。

あれで……遊び?

もし本当の姦姦蛇螺として現れていたら。
三人がどうなっていたのか。
それは、この話の中でも語られていません。
Bのその後
Bはそのまま、
伯父たちに預けられることになった。
投稿者とAも葵から祓いを受け、
帰宅した。
それ以降、
投稿者はBと一度も会っていない。
どのような処置が行われたのかも知らされなかった。
ただし、
Bは死んではいない。
その後、
すっかり更生し、
どこかで普通に生活していると聞いたという。
投稿者とAも、
ほどなくして荒れた生活をやめた。
大きな理由のひとつは、
あの時に見たBの母親の姿だった。
息子を救うために動き続け、
自分の責任ではないことまで自分の責任だとして、
必死に頭を下げる母親。
それを見て、
投稿者は親というものについて考えさせられたという。
そして皮肉なことに、
この一件を境に、
投稿者やAの家族も少しずつ彼らへ接するようになった。
三人の少年を変えたのは、
怪異そのものだけではなかった。
最初からいたもの
話の最後には、
あの夜の謎についてもいくつか説明されている。
まず、
森へ入った直後から三人についてきていた音。
あれはやはり、
姦姦蛇螺だったらしい。
姦姦蛇螺は、
柵で囲われた区域の中を動き回っている。
しかし、
六角形と箱による封印が機能している限り、
基本的に姿を現すことはない。
だから三人は、
森へ入った時点ですでに、
見えない何かに監視されていたことになる。
一定の距離。
歩けば動く。
止まれば止まる。
柵を越えた途端に、
音が消える。
Aが何気なく口にした、
「ずっとここにいたんじゃないか」
という推測。
あれは、
正しかったのかもしれない。
移された封印
姦姦蛇螺を供養する場所は、
ずっと同じではない。
何らかの法則に従い、
山や森の中の限定された範囲が選ばれる。
そして一定の周期で、
供養場所そのものが移される。
投稿者たちの住んでいた場所でも、
事件から一年近く経った頃、
あの柵の撤去が始まったという。
投稿者は二度と確かめに行かなかった。
だが、
おそらく姦姦蛇螺は、
別の場所へ移された。
つまり。
あの柵の中から、
消えたわけではない。
封印が終わったわけでもない。
場所が、
変わっただけだった。
なぜ姦姦蛇螺は怖いのか

最初はさ。
「入っちゃいけない場所に入ったから祟られた」って話だと思ってた。

それだけではありません。
この怪談には、何度も意味が反転する瞬間があります。
最初、
森で聞こえる音は、
何者かが外から三人を追っているように思える。
だが実際には、
最初から区域の中にいた存在だった。
六本の棒は、
意味不明な小道具に見える。
だが、
それは巫女を表していた。
六本の腕を持つ女は、
姦姦蛇螺の恐ろしい姿に見える。
だが、
それすら本当の姿ではなかった。
そして。
物語の中心にいる怪異は、
最初から怪物だったわけではない。
村人を守ろうとした、
ひとりの巫女だった。

そう考えると……ちょっと見え方変わるな。

ええ。
彼女は大蛇と戦い、
下半身を失っても村人を守ろうとしました。
その彼女を裏切ったのは、
守られていた村人たちでした。
だからこの話は、
単純な怪物の話ではない。
怪異を生み出したのは、
人間だった。
好奇心の代償
それでも、
投稿者たちに起きた出来事だけを見れば、
避ける機会はいくらでもあった。
Bの父親は、
死ぬかもしれないと警告した。
森の中では、
何かがついてきた。
目の前には、
異常な柵があった。
柵には、
綱、有刺鉄線、紙垂、そして無数の鈴。
中へ入れば、
異様な閉塞感。
さらに奥には、
六本の木と注連縄。
六角形。
古びた箱。
四つの壺。
六本の棒。
どこか一か所で、
引き返せた。
箱を開けなければよかった。
棒に触れなければよかった。
形を崩さなければよかった。
それでも三人は進んだ。
特にBは、
何度警告されても止まらなかった。

結局さ。
全部Bがやらかしただけじゃね?

発端だけを見れば、否定はできません。

身も蓋もねぇな。

ですが。
そのBが最後には生き残り、
更生したというところまで含めて、
この怪談なのだと思います。
好奇心。
慢心。
傲慢さ。
たった一度の軽い気持ち。
その代償として、
Bは取り返しのつかないものに触れた。
それでも、
彼を見捨てなかった人間がいた。
母親がいた。
怪異に対処する者たちがいた。
そして何より、
三人の命を奪うことを選ばなかった「巫女」がいた。
そう考えると。
姦姦蛇螺という怪談は、
「禁忌を破った少年が祟られる話」だけでは、
少し足りないのかもしれない。
まとめ
姦姦蛇螺。
森の中。
立入禁止の柵。
三人を追い続ける音。
六本の木。
六角形の封印。
四つの壺。
巫女を表す六本の棒。
そして、
六本の腕を持つ女。
そのすべてには、
意味があった。
かつて、
ひとりの巫女が村を守るために大蛇と戦った。
下半身を失ってなお戦った彼女を、
村人たちは裏切った。
腕を切り落とし、
大蛇への生贄として差し出した。
やがて十八人が死に、
四人だけが残った。
そして長い年月、
巫女の怨念を鎮めるための供養は続けられた。
その封印を、
何も知らない三人の少年が崩した。
だが。
彼らが見たものは、
本当の姦姦蛇螺ではなかった。
なぜ巫女は、
彼らを殺さなかったのか。
なぜ「遊び」で済ませたのか。
そこまでは語られていない。
ただひとつ分かるのは。
投稿者たちが暮らしていた森から、
その封印はすでに移されているということ。
今、
どこにあるのかは分からない。
もし。
山や森の中で、
不自然に囲われた場所を見つけても。
柵に鈴がついていても。
その奥に何があるのか、
確かめようとはしない方がいいでしょう。

見てはいけないものを、
見ようとしないこと。
入ってはいけない場所へ、
入らないこと。
そして。
意味の分からないものには、
決して触れないこと。
今夜の記録はここまでです。
また次の資料でお会いしましょう。
出典
作品名:姦姦蛇螺
初出:
2ちゃんねる オカルト板
「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?271」
2011年6月26日
レス707より投稿開始
ライセンス
本記事はインターネット上で広く知られる怪談『姦姦蛇螺』をもとに、深夜資料室独自の解説・再構成を行ったものです。
おまけ

なあ司書。

はい。

森で柵を見つけてさ。
有刺鉄線があって、紙がいっぱい付いてて、鈴まで大量についてたらどうする?

帰ります。

だよな。
じゃあ、その柵の向こうに六角形の注連縄と謎の箱があったら?

帰ります。

箱の中に謎の液体と六本の棒があったら?

帰ります。

ずっと帰ってんな。

それが正解です。



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